しっかり確認だけして、持たされた衣装を改めて見る。
シックなドレスは肌触りがよく少しのフリルと作った設定を連想させるデザインになっていて、よく考えられたのは理解ができる。更衣室に入り込んで、貰ったばかりの衣装に袖を通す。図ってもないのにサイズがピッタリで、一瞬色々と頭をよぎりながらも、高いヒールのパンプスを履いて、少しドン引いた。靴までピッタリをこしらえられると気味が悪い。
「へぇ……」
更衣室の中に備え付けられていた姿見で、背中を確認する。
ユニット衣装に似たコルセットの紐が横に結ぶ事が出来ない。縦になったり不格好だったりする。一旦ゆるめに絞めて誰かに結んでもらおうかとも考えたが、あの癇癪玉が怒る予想が目に浮かんだ。どう転んでもいい未来はない。あきらめて解いた紐が膝裏をくすぐるのがこそばゆい。
どうするか頭を悩ませていると、控えめなノックが一つ鳴らされて、まだかと催促されので、現状の報告をする。一通りは着たけど、最後のコルセットの紐がうまいこと締められなくて困ってる。それだけを伝えると、少しのため息と一通り着ているならば紐は締めるので出て来い。そんな返事が返ってきた思っていたよりも違う答えに、肩透かしを食らったような気になりながらも更衣室を出ると部屋の前に、癇癪玉が立っていた。品定めをするような目でじろじろと上から下からと見ている。視線の刺さり方に文句を言えば、思い出したかのように取り繕うように振り向けと指示を出された。
言われたとおりに振り向き今出てきたばかりの更衣室のほうを向く。膝裏をくすぐるような紐が消えて、コルセットの圧が増えていく。
「待って待って待って、苦しい!!ギブ!!」
「何をいってるのかね、これぐらいまだいける。あと2ミリ詰めたら勘弁してやろう。」
「ギブギブギブ!!昼食べたものが出る!!」
「貴様は食べすぎだ泉本!!」
「アイドル科のご飯珍しいから仕方ないがあ!!」
苦しいと主張すれども、2ミリを詰めるからそれまで耐えろしか言われない。怒声の合間に息を吸えとか言われて、細く息を吸うとそれに伴い圧がかかる。苦しすぎて、吐く余裕がない。息が据えないことに視界がチカチカするのを耐えていると、ふっと緩まった。先ほどよりか幾分かましに息が吸える。
「姿を見るといい、なにもないより2ミリ締めたことによって姿勢よく見えるだろう」
「いや、わからないけど。」
「泉本、この繊細な芸術がわからないのかね。」
「……わからない。でも、見えてる世界は違う気がするね。」
更衣室のブースを出ると、舞台袖はすぐだ。ヒールの音を鳴らして、舞台に立つ。人は居ないけれども、まだスポットライトが落ちていなく、舞台中央には練りに練った大型の装置がそこにあった。彼らのユニットが大トリだったこともあってか、まだ残っていた。
大きな城を模した装置は、沈黙したままだ。
思ったよりも大きな装置は想像をはるかに超えていた。脳裏に描いた想像を彼は汲み取って、形に仕上げてしまった。これを言語化するならば、と思考の海にとっぷり暮れようとしたが、声をかけられた。
「このステージ装置は明日の朝には解体されるが、泉本。今だけはきみが此処を統べる女王だ。」
「じゃあ、あんたが皇帝様って訳だ。」
「僕は『皇帝』じゃない夢ノ咲に君臨する『帝王』だ」
「敬称の一種じゃん。っていうか設定グダグダじゃない?」
私が女王なら、あんたは『王様』だし、あんたが帝王なら私は『女帝』じゃん。表現の誤用だなんて珍しいね。
そう言いながらもカラカラ笑って舞台から癇癪玉に目線を向ける。スポットライトの逆光で表情が見ることはできないけれども、そこで穏やかな顔をしているのは短い付き合いだけれどよくはわかる。
「ねえ、かんしゃk……あぁえっと、斎宮宗……だったっけ?」
「何かね。泉本。」
「このしばらく、色々と喧嘩もしたけどさ。色々楽しかったし。この服、作ったんでしょう?」
「勿論だよ、試着を影片にさせたが、ちょうどに作れているようで僕も安心したよ」
「靴までピッタリで変態みを感じるけど。」
「計算しているからね。泉本に一番似合うように仕上げた。よく似合っているよ。」
一歩二歩と前に出てスポットライトの逆光からずれて顔がよく見えた。
「ね、舞台ってすごいね。スポットライトの熱は太陽より熱いね。知らなかったな」
「舞台に立ってどうだ?」
「この感覚はいつか文字にしたいかな。これで約束も終わるわけだし。斎宮宗はどうだった?この舞台」
「僕がいいと思わないものをステージにあげるわけないだろう」
「そりゃそうだ。っていうことは、認めてくれてるわけだ。」
そうだな。と考えるように斎宮宗は言う。今日で、この約束も終わるのだ。殴ったからこそ始まった歪で不思議な間柄も今日で終わりだ。明日から、斎宮宗と顔を突き合わせて喧嘩することもないのだ。それは少し寂しさも覚えてしまう。
「今日で約束は終わりだよね?」
「そうだな。これでうるさい毎日と離れられるな。」
「……は?うるさいのはあんたでしょうよ。」
毎日毎日私が出すものに全部ケチをつけて返品するのはそっちだったじゃん。きみが短慮で出してくるからだろう?一晩かけて出したものを短慮って言われたかねーって。乱雑に書かれた設定を世に出すわけにはいかないだろう。駄目出しだけしてるだけじゃんか!
声を上げて見ると、斎宮宗は私と同じ勢いでヒートアップしていき、売り言葉に買い言葉でお互いがお互いを罵りあう。
「泉本が将来売れたとしても、僕たち『Valkyrie』は絶対に仕事を頼まないね」
「あんたが泣いて謝ったって仕事してやらない。お断りよ!大金詰まれたって設定を詰めるかっての」
ヒートアップして叫ぶような勢いで言ったこともあって、コルセットが苦しくて、ゼイゼイ息切れをしても啖呵を切る。
「いい?絶対にほえ面かかせてやるよ」
「ふん、将来仕事に溢れて、僕に泣きつく見える未来が見えるね。」
「5年後までに結果出してやるから覚悟しなさい」
啖呵を切っていると、警備がやってきて、早く帰るようにと促された。そう言われたら売り言葉買い言葉も一旦止まって、どちらともなく帰ろうか。という結論にたどり着いた。最終的に借りた服も返そうと思ったら、このライブの衣装など見る気はないから持って帰るといいとか言われて、私は殴りたい衝動を抑えながら、慇懃無礼に応答しておくのだった。