泉本と過ごした濃密でかけがえのない数日間はまるで夢か幻だったかのように、彼女の原案に沿って作ったあの舞台がなくなるとともに彼女との交流もぱたりとなくなった。
賞レースに出すといっていたあの小説、結果くらいは知りたいと思う自分は我儘だろうか。
彼女の前で、口を開けば悪態ばかりがついて出ていた自分に少しだけ後悔した。
お互いさまと言ってしまえばそうなのだろう。遠慮のない言葉たちはお互いの精神をすり減らすようで、でも、だからこそ快いものだった。
棘で覆った言葉の真意を汲み取って欲しい、なんて、盛大なエゴでしかない。
きっとこの先も彼女の行く道とは交わることはないのだろう。
「お師さ〜ん?」
「何だね影片」
「ん〜、なんやぼうっとしてるように見えたから」
「僕だって物思いに耽ることくらいあるのだよ。それより、次の――」
次のライブについて話そうと思っていたはずだった。
気持ちを切り替えて、新しい芸術を。そう考えている自分を嘲笑うように、脳内で彼女の影が揺れる。
そして不意に視界を過ぎった見覚えのある姿に、形振り構わず駆け出した。
「泉本!」
大声で名を呼べば、立ち止まる人影。
今更何の用だとでも言いたそうな視線に、せいぜい高圧的に口を開く。
「貴様、今度は何の用でアイドル科に来ているのかね」
「は?なんであんたが」
「先に僕の質問に答えたまえよ」
いや、違う。問題なのはそこではない。
彼女との遠慮のない言葉のやり取りは楽しいが、今は違う。
どうして彼女がここにいるのかよりも、もっと、大切なこと。
彼女と芸術を作り上げるあの高揚感。そして彼女がいなくなってから感じていた、妙にぽっかりとした空白感。
失うのは一瞬だ、そして二度と手に入らなくてもおかしくない。だからこそ。
単純なたった一言を、僕は彼女に伝えたかった。
「……貴様がいないと張り合いがない」
「何、それ」
「泉本リサ。貴様にずっと僕の傍にいてほしい」
「……へ?」
素っ頓狂な声を出して彼女が固まる。
まだ日も高い。彼女の顔が赤くなっていくのは夕陽のせいではないだろう。