目が覚めたら新世界



調子が悪いからとひとり早めに帰宅したその日、久方ぶりに彼女と会話した。
世間一般でいうところの「幼馴染」にあたるであろう彼女は自分よりも年上で。小学校以来同じ学校に通うこともなかった彼女との会話が減るのは当たり前だ、いくら隣の家だからって登校や下校の時間がずれていれば毎日顔を合わせることもない。
休日に家族で遊ぶというタイプでもなかったから、いつしか彼女とのやり取りは希薄なものになっていた。
最後に言葉を交わしたのは2年前、僕が夢ノ咲へ入学したその日だ。「しゅーくん、アイドルになるんだねぇ」なんて朗らかに笑っていた彼女の顔を今でも覚えている。
……2年たっても、彼女の中では僕の印象は幼いままのようで、苛々した。いや、違う、これは体調が悪いせいだ。なんで今日に限って彼女と鉢合わせたのかと思うとやるせない。もう少し調子がいい時だったならなどと考えても仕方ないが、それにしたって彼女の変わらなさと言ったら。とにかく、落ち着かなかった。

彼女は幼少期から近所のマドンナのような存在で、僕の初恋のひとだった。
かつていじめられていた頃にかばってくれた彼女の背中を今でも覚えている。
年上だからかよくおせっかいを焼いてきて、うるさいなと反論しながらもそんな彼女に恋心を抱いていた。
そんな恋心も、夢ノ咲に入ってからいろいろありすぎてすっかり忘れかけてはいたのだが。
またねと気軽に別れてすぐに玄関へ消えてしまった彼女は、相変わらず美しかった。
2年間も眠っていた初恋が再び目を覚ましたような感覚についていけない。だからこれはきっと体調が悪いせいだ。

そんなことを延々と考え続けて、ようやく自宅の扉を開けれたのは後から帰ってきた影片に声をかけられてからだった。
寒空の下に長く居すぎて体調が悪化したのは言うまでもない。




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