大学に向かう最寄りのバス停、いつもとちがう場所で授業が行われるために今日はここから行くことになる。就活サイトを覗いていると、香織姉さん。と声が聞こえて、顔を上げるとしゅーくんが立っていた。すこし寝不足なのかうっすら目の下にくまが見える。
「おはよう。しゅーくん。今日は不機嫌さん?」
「作業が多くてね。」
「そうなの。アイドルって華やかな世界なのに、雨垂れ石を穿つようなことをしてるのね。」
「僕の芸術はいつでもそうあらねばならない。常に完璧にして、しておくのがあるべき姿だ。」
そう言いながらも目がキラキラしているしゅーくんは、幼い頃とあまり変わっていないような気がする。よく私の後ろに隠れてベソをかいていて、最終的にりゅーくんが引っ張り出してたのだけど。どことなくそのりゅーくんに引っ張られて歩いている時と同じ顔をしている。
「ふふ。」
「なにを笑っているんだね。香織姉さん。」
「なにでもないの。しゅーくんは頑張り屋さんだものね。私は知っているよ。」
「姉さん。僕はそんなに子どもじゃない。」
「ここらあたりの年下は大体私の弟みたいなものだから。」
いつまでも私もみんなにとっての姉でいたいのよ。なんて言ってみたら、しゅーくんはそれでも僕は高校生だと主張する。その姿に被るのは幼い頃の帰り道。手を繋いで歩くなかで、いじめっこに言葉に反発するように言葉を吐き出すのと同じ顔。やっぱり変わらなくて、そこがとても懐かしさを覚える。
「いつもはバスで?」
「ううん今日は、授業の一環で美術館館まで行くだけなの。しゅーくんはいつもバスなら一緒に行く?」
そう投げかければ帰ってきたのは快諾の返事。僕は近々開催するライブ会場の下見でね。電車に乗って行くんだ。と教えてくれた。いつのライブなのだろうか。見に行っても問題ないものならば見に行きたいな。と思ってると、香織姉さんのたのみならばチケットを用意するよ。なんて嬉しい言葉を言ってくれる。
「ありがとう。楽しみにしてるね。しゅーくんが踊るんだから、絶対にきれいだよね。動作もきれいで素敵だもの。」
そんなことを言えば当たり前だと言われたけども、きっとそれはしゅーくんの努力で、培われてるものなんだから当たり前なんかじゃない。そうでしょう?
思ったことを口にしてると、しゅーくんは顔を真っ赤にした。誉められなれてないのだろうか。そんなことを考えると、しゅーくんはからかわないでくれたまえ。と咳払いを一つして澄ました。
それからライブについて色々聞いたりしているとバスは滑るようにやってきて、私が乗り込むとしゅーくんはドアが閉まるまで手を振って見送ってくれたので私もしゅーくんが見えなくなるまで手を振り替えしていた。やはり感情豊かな優しい子のままで、見えなくなった後。
窓の外を見ながら私はにっこりと今度のライブを楽しみにした。