ひっぱたいてしまった男は、斎宮宗と名乗る。から、自分も名乗った。その斎宮宗が眉を片方上げて訝しげにこちらを見ていた。その目は探る目、真偽を確かめるような目をしていた。
まぁそうでしょうね。真面目に自分の顔面をひっぱたいたやつになんて全体重を預けるような真似なんて普通はしない。だからこそこの目線は普通なのだが、どこか違うようにも感じる。探るような、考えるような目線に少しイラッとしてしまったので、思ったままのことを口にしてしまった。むこうは少し睨むようにこちらに眦を釣り上げて言う。
「君も立ってないで座ればどうかね?睨むかのように見られるのは好きじゃない」
「睨んでない。目付きが悪いのは生まれつき。」
どうしていいかわからなかったのだ。身の振り方をだ。殴った相手を正面に堂々とは座れない。が、言われてしまったのなら仕方ない。諦め半分で彼の前に座る。座りの悪いスツールで多少ガタついているのが気になったけれども、それよりもこの座ってしまった状態をどうしようかと考えていると、斎宮宗がきみの先程の作品についてのノートなのだが。なんて言い出して私は思いっきりイヤな顔をした。
「しっかりとは読めてない、目にはついてしまったことは君にとって不本意だっただろうが。僕にとって有意義だった。だから、一度きみの考えている中身を詳らかにしたまえ。それで代金の一部としようではないか。」
「はい?つまびらかにって。なんであんたに話さないといけないわけ?」
今の時期丁度ドリフェスがなかったから問題はなかったが、もしもこの腫れが消えるまでにライブがあったなら。きみはどうするつもりだったのかね。僕の芸術に傷をつけてしまっているのだから、きみはそれ相応の支払いが必要なのだよ。学院内の金額なぞ、普通の学生が支払えるような学が動いているわけではないのだよ。
そこまで言われて詰まった。確かに、何度か成績の都合上でライブに参加するだけはしていた。雑に投票してさっさと部室に引きこもっていたのだが。その壇上で行われてた装置は何度か大きく複雑そうな仕組みをしていたのは覚えている。人で作るのにしてもかなりの精密な仕組みになっているのだろう。と傍目からでもわかるのだから、それなりの値段はしているのだろう。バイト代だけでは足りないだろう。
「あんまり、ちゃんとできてないから。少しだけ待ってほしい。」
「少しとは。どれぐらいの時間を少しと定義しているのか意識の齟齬を合わせようではないか。生憎だが僕は気の長いほうではないのでね。明日だ。」
「短い!短すぎる!」
「きみに口答えをするような権利があると思っているのかね!」
大きな怒鳴り声に普通の子なら身をすくめてしまうのだろうけれども、私の頭は怒りで煮えそうであったまだ触りも何も書いてないあの作りかけは、キャラクターの煮詰めから始めだしたところだ。プロットなんてものも組んでない。キャラクターたちの色もまだ塗ってないのに、それを広げることなんてできない。
「まだ書いてないもの。無理。」
「無理。じゃない、君にはやる。かはい。の答えしか与えられていないのだ。理解しているのかね。この愚図が。」
イラッとしたので、一番最初の書き下しと設定を言い始めたら速攻で却下を食らった。いや、却下を食らう意味がわからない。なんなの、からかわれてるの?不思議の国のアリスをベースにした空想おとぎ話は設定を何故か二人で練る構図になってるのが意味がわからない。