楽園への道標



芸術家として他人の芸術が気になるのは当然だ。
増してそれが己の感性に触れるものならば、その詳細を見たいと思うのは至極当然の思考だろう。
半ば脅しのような形で目の前の彼女に話させた内容は粗が目立つ。ついうっかりああでもないこうでもないと口を出してしまって、気づけば彼女と二人で構想を練る状況に陥っていた。

「……で、こうなるのはどうかね」
「ああなるほど、じゃあこっちの伏線はここで回収して」
「ふむ、なかなか分かってきたようじゃないか」
「これだけ言い合えば多少はね。」

ふぅ、と彼女が息を吐く。
散々言い合って漸く納得いくものが纏まった頃には、随分時間が経過していた。
普段ならば無駄な時間を過ごしてしまったと嘆くところだが、こんなに長く語り合ったのは久しぶりで、有意義な時間だったと認めざるを得ない。

「泉本……といったかね」
「なに?」
「初稿ができたら持ってきたまえ。浅からず関わってしまったからね、ここまで関与しておいて不出来な状態で発表でもされたらたまらない」

僕の言葉に、彼女は何故だと言わんばかりに眉を顰める。返事は、と問えば渋々と言った様子ではいと答えられた。



じゃあ私はこれでと部屋を出た彼女と入れ替わりに、影片が部屋に入ってくる。

「……お師さん、なんや楽しそうやね」
「影片にはそう見えるのかね」
「えっ、ちゃうかった?」

完全に違うとも言い切れない感情を持て余して言葉に詰まる。久方ぶりの他人と高め合う感覚に酔っていたのかもしれない。

「……帰るよ、影片」

結局、口にできたのはそんな言葉だけだった。


影片と2人、自宅への道を歩く。
夏の夜らしいじめっとした空気が鬱陶しくて、それでもいつもより不快じゃなかった。
そういえば今日は泉本と出会ったせいで調べ物が出来なかったことを思い出す。明日こそは図書室へ目的のものを探しに行かなければいけない。
Valkyrieの完璧な芸術のためにも下調べは重要だ。
やることはまだまだ山積みだなと思いながらふと隣を見ると、影片は相変わらず締まりのない表情で歩いている。

「んぁ?お師さん、どないしたん?」
「……どうもしないのだよ。……そういえば、影片のメンテナンスもしてやらないといけないね」

言えば、影片は嬉しそうに頷いた。
何がそんなに楽しいのかねと呟けば、お師さんが楽しそうやから俺も楽しいんよ、などと返ってきて思わず頭を抱えた。
別に、楽しんでいるわけではないはずだ。きっと。



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