きらめく世界の裏側に


後悔はさせませんよ。そう言い残して、気球に乗って飛んでいった。気球ってこんな早いんだなぁ。とか遠くに消えていくのを見送りながら、他人事のようにとらえた。……じゃなくって、利き手に握らされたチケット。タダと言われてしまったら、ぐらりと来るのが庶民の心。演劇部って言ったら、『Ra*bits』の真白くんがいる部活だと思い出して、一瞬だけ胸がときめいた。
可愛くて頑張る男の子たちのいつも頑張っている姿を見て、頑張ろうという気力をもらってるので見てみたい。そっちの衝動に駆られる。
タダだし、きちんと使わないとチケットが悲しむ、そして真白くんが見たい。が等式で結ばれる。行かない手はない。本来の目的とは違うだろうけれど、チケットは浮かばれるだろう。とかだとか、無理やり理由をつけて、舞台を見に行くことにした。あの人を見るんじゃない、真白くんを見に行くんだ。

当日の舞台。最高に良かった。真白くんがかっこいい役で。とっても目の保養で幸せだった。隣になんかがいなければもっとよかったんじゃないのだろうか。そう思いながら、人込みの中に紛れて帰ろうと思ったら、名字さんですね?っていう確認のもと強制連行が発生した。
まて、あまりにも無残な姿だから宇宙人連行の図はやめてくれ。人さらいだなんだと叫ぶ間もなく、連れてこられたのは舞台の裏側。控室にねじ込むように押し込まれた。
振り返ってちょっと!と声を上げて部屋の外を見るけれども、そこには誰も居なかった。えぇ。怪奇現象……。今の人だれ?

「愛しい人!やっぱり見に来てくれたんですね!」
「あなたを見に来たわけじゃないですけど」
「それはつれない!愛しい人私のチケットで、見たのでしょう?」
「私は、真白くんを見に来たんです!!」

拒む一言に、聞き慣れない驚きの一声。振り替えれば、驚いた真白くんと困惑して止まっているもう一人。今口にした人がたっていた。

「えっ、俺ですか!?」
「あ……あの……ですの」

いつもライブで見るあこがれの姿。真白くんが目の前にいるということが驚きと、困惑がないまぜになって思考が同時に殴り合うように囁いてきている。混乱のままに、今しがた入ってきた部屋を「結構です!」と謎の言葉を残して飛び出した。
わからないまま走りだしたけど、圧倒的迷子。っていうか、うわ、今度の握手会とんでもなく行きにくい。角を一つ曲がったところで足を止めて、頭を抱える。
どうしよう、やばい。今度の握手会まじでどんな顔していけばいいっていうんだ。あーとかうーとか生きる屍よろしくなうめき声を出してると、視界に一つ花が差し出された。
まっすぐ上に伸びる花。名前も知らないけれど、小ぶりな花が集まって円錐形のような形で一茎としてなっている不思議な花だった。視線をそうっと動かすとここに連れてきた元凶が眉を下げていた。

急にお連れして申し訳ありません。今回連れてきてもらうようにしたのも、貴女のその素敵な唇から流れるように私へ称賛の言葉をささやいてほしかったのですが、混乱を生むようにしてしまって。友也くんには私からいっておきます、今日はお帰りなさい。
そう言いながら、私の背中を押して、早く帰るように促している。そうじゃない。自分で撒いてしまったのだ、次に会う時私が気まずい。たくさんの中の一人だろうけど、こちらが落ち着かない。ばれたら気まずい。

「ちゃんと、謝ります。言い逃げっていうかなんて言うかわからないけど。」
「そうですか、私にもそんな誠実な対応をしていただきたいですねぇ。」
「それは嫌です。」

しくしくと嘘泣きをして白いハンカチで目頭を拭い、露骨に鼻を鳴らす。泣きながらもこちらを一度見てゆっくり歩きだしている。どうやら、案内はしてくれる様子。この芸達者は、どうして私を集中的に狙っているのかがわからない。
この人はキラキラきらめく世界の人なのに、どうしてこんなに平凡な私にかまってくるのだろうか。前を歩く背中を見ながら、心の中で疑問を投げたのに、それは―なんて言い出すので、心を読んだのかと動揺した。なんだ、エスパーか?怖いアイドル怖い
[ Back ]
[ Top ]