ワンス・アポン・ア・タイム


まあ、きっかけは別に何でもよかったんですけど。
友也くんに謝りたいという彼女を連れて楽屋へ戻る。
ころころ変わる彼女の表情から感情を読むのは読唇術なんかよりずっと簡単で、見ていて飽きないしとても面白い。

「はい、着きましたよ」

楽屋の扉を開けると、北斗くんと友也くんがこちらを見る。
彼女の肩をぽんと叩けば、おずおずと友也くんの前へ進み出た。

「あの、さっきはごめんなさい。いつも応援してます」
「えっと……ありがとうございます」
「今日の舞台もすごくかっこよかったです、また握手会行かせてください!」

舞台よろしく彼女が頭を下げれば、頭をあげてください!と友也くんが慌てる。う〜ん、可愛らしいですねえ。

「そう言って貰えて嬉しいです。これからも応援してください!」
「はいっ!」

さながら王子さまとお姫さま。であれば私の役割は王子の従者か魔法使いといったところでしょうか。
現実はなかなか難しいですねぇ、なんて微笑ましく眺めていれば、北斗くんに横からつつかれた。

「おい、部長」
「おやぁ?何ですか北斗くん」
「あんたはこれでいいのか?」

神妙な顔の北斗くんにとぼけて返せば、あれはあんたの好きな人なんじゃないのかと真顔で聞かれる。
いやまぁ、そうなんですけどね。真顔で聞かれると答えにくいですよ。

「……北斗くん、昔話をしましょうか」



むかしむかし、あるところに、小さなお姫さまがいました。
お姫さまはとっても頑張り屋さんで、自分と同じように一生懸命頑張っているひとが好きでした。
頑張り屋さんのお姫さまは、ある日、日々樹渉の芸を見てたいそう喜びました。
お姫さまを喜ばせようと、日々樹渉は芸を磨きます。
やがてその芸が周りに理解されないほど高尚になっても、お姫さまだけは喜んでくれました。



「初めて会ったときに見せてくださったあの笑顔が忘れられないんです。これを恋と言わず何と言いましょう!」
「その話がどこまで本当か知らんが、なら尚更このままでは分が悪いだろう、あんた」
「そうですか?」

視界の隅には、笑い合う友也くんと彼女。お姫さまが笑顔ならば、自分は王子さまでなく魔法使いでも良いような気さえしてしまう。元より、主人公役より道化や悪役の方が得意ですしね、私。
なんて口にすれば、北斗くんはやれやれと言わんばかりに肩を竦めた。

「部長の考えることはよくわからん」
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