大切なのは言葉じゃない
なんとか真白くんと和解?一方的な謝罪をして、挨拶もそこそこに退こうとしたら送りましょうと言い出した。結構です、と断ったのだが迷子になった実績を引っ張り出されたので、強く出れず彼の言い分を飲み込むことにした。肯定したら、見事に流れるようにスムーズに私の肩を抱いて歩き出した。ナチュラルに手を回しすぎて、断る隙間もなく部屋を連れ出された。
ちょっと!と怒っても、笑って流されてる。控室を押し出されると、こっちですよ。と私の隣を位置取って、まるで花が出るように(いや、出してる)喜んでいる。
「貴女が見に来てくれたことが嬉しいのです。どうでしたか?」
「真白くんがかっこよかったですね。」
「私には何の言葉もくれないのですか?」
「……チケットが悲しむし。ねぇ。」
「チケットが悲しむ。ふむ。幼いころから貴女という人はそういう感性がとてもいいですよね。」
「幼いころ?」
「さぁ。私、今何か言いました?」
さぁ?といわんばかりに首をかしげて、すっとぼけている。しらじらしいすっとぼけ方が、潔すぎて謎に愉快だわ。
「あぁ天気の話でしたね!」
「いや、そんな話じゃなかったよね?さっきの話」
「私はさっきからずっと天気の話でしたよ?友也くんとお話できたのが嬉しすぎたんでしょうね?」
「……そんな話だったっけ?」
「えぇ、そうですよ。」
なんだかごまかされた気がするけれども、追及してもさぁ?としらばっくれられたので、追及することもあきらめた。この男はあまのじゃくの気質でも持っているのではないかと勘繰ってしまうけれども、勘繰るのも疲れた。
「今日は色々な貴女の一面が見れますね。呆れた顔もまた別の愛らしさがありますねぇ。先ほど渡そうと思っていたのですけど、今日来ていただいたお礼に花を一輪。」
手品のようにパッと花が出る。どういう仕掛けなのか気にはなるけど、聞いたらそのまま違う方向に引きずられる気配もするのでとうに問うことは難しい。どうにかして答えを引き出すことができないかと思考を巡らせていると、彼は花を揺らして、ご機嫌にも見える。
「で、愛らしい貴女は今日の舞台を見て何を思われましたか?」
「あー。えっと、見てて好きな感じだなって思ったのは、2幕の最初かな」
「2幕に友也くんは出てないですし、そこは私の独白シーンですよ」
「話の構成上だから仕方ないでしょ。」
話をぶった切る様に終わらせる。推しの出てない舞台はゆっくり見るよ。でも、推しの真白くんについてのシーンではなく、この人の出てくるシーンである理由がよくわからないのであった。なんでなのか理由を探してみたけれども、何も浮かばず隣の男は私が選んだシーンが嬉しかったのか、花を消して白のハンカチーフを取り出して涙をぬぐうそぶり。
「友也くんでなく、私を選んでいただけたのは光栄です!」
「ちょっと、泣きついてこないでよ。嘘泣きでしょ?」
「嘘泣きに見えます?」
その瞳から零れ落ちた一滴を見て言葉をなくした。まさか本当に泣いてるとか思ってないからだ。予想外だったので驚きを隠せないでいると、まぁ嘘ですけどね!と本人から申告された。うそかよっ。