ぐらつく視界
ドラマの撮影が始まった。
七種くんは本当に演技が初めてなのかと疑うくらい演技が上手くて、正直教えるところなんて全然ないくらいで。むしろ普段から演技してるんじゃないかなというのは同族のカンか、私の女優としての経験に基づく印象か。
カットの声がかかり、監督と画面を確認する。
うん、悪くない。
監督とも頷き合っていったん休憩に入ると、にこにこ笑顔を貼り付けた七種くんがやってきた。
「名前さん、お疲れさまです!相変わらず素晴らしい演技ですな」
「七種くん……」
七種くんは自分の出ていないシーンでも大抵現場にいる。というより、まっすぐにこちらを観察するような視線に気づくなという方が無理だった。
他人の視線には結構鈍感な方なのに、そんな私が気づくんだから相当だと思う。
更に休憩に入る度に話しかけられては、もはや彼という存在を認識しない方が難しい。
「……七種くんも、演技上手ですよね。特にアクションシーンとか、本物の軍人みたい」
「っ……、名前さんに褒めていただけるとは!自分なんてまだまだですがやはり賞賛の言葉は嬉しいですな」
「七種くん?」
いつもと少し雰囲気が違った気がして首を傾げるも、違和感はすぐに消えた。何だったんだろうと思いながらも、話題は次のシーンのことへと移る。
「次は名前さんとの合流シーンでしたか」
「現場担当の七種くんと諜報担当の私が合流して、本拠地を叩くシーンですね。ここはまだお互いを信用してない感じが出せたらとは思ってます」
「なるほど。その方が任務達成後の信頼度の上昇が魅せやすいと。流石名前さんです!」
やたらと褒めて持ち上げられるのは苦手なんだけど、とは声に出せずに曖昧な笑みで逃げる。
正直、七種くんとドラマのような信頼関係が結べる気がしない。お互いを信用してない序盤はともかく、後半は信頼関係がしっかり魅せられないとコケるのは目に見えてる。まぁお芝居の上でそういう風に見せればいいから、カメラの外で七種くんと仲良くなる必要は必ずしも無いんだけど。
監督に呼ばれて軽く打ち合わせてから、次のシーンの撮影に入る。
敵をくぐり抜けてこちらへ近づく七種くんにタイミングを合わせて、合流。お互いの情報を交換したら、逆方向に走り――
「っ、!?」
「ーーっ!!」
不意に足場が揺れて、ぐらつく視界。
転ぶ……!!
思わず目を瞑って襲い来る衝撃に耐える。
でも、その衝撃は、やって来ることはなかった。