最低最悪な一日
私のあんずちゃんが風邪をひいたらしい。
私の!あんずちゃんが!!風邪!!!
あの子は確かに多少無理するところはあったけど、風邪で倒れるなんて無理しすぎだし、っていうかウィッシングライブで懲りたんじゃなかったのあんずちゃん!!!
居ても立ってもいられずに駆けつけたあんずちゃんの家の前には、どこかで見たようなバイクが一台停まっていた。
……これ、もしかしなくても守沢のバイクでは?
頭を過ぎった能天気な笑顔をなかったことにして、あんずちゃんの家にお邪魔する。
大体彼女じゃないだのちんちくりんだのめちゃくちゃなことを言っておいて私のあんずちゃんに手を出したら許さないからな守沢千秋。
「おじゃましま〜す。あんずちゃん、だいじょう…ぶ、」
「っ、名前先輩!?」
こんこんとノックしてあけたあんずちゃんの部屋。
寝ているあんずちゃんに襲いかかろうとしている守沢千秋の姿を見て私の思考はプッツンした。
「ってめえこらあんずちゃんになにしてんだ守沢ああああああ!?」
「えっ、名前……!?いや待ってくれ誤解だ!」
病人のあんずちゃん相手に狼藉を働こうとしている男に生きる資格などない!
盛大な回し蹴りが決まったところで、守沢千秋は床に崩れ落ちた。
*****
「あんずちゃん、大丈夫?」
「わ、私は大丈夫です……ちょっと熱が高いくらいなので……。名前先輩にもご迷惑かけてすみません」
「そんなの気にしないで!あんずちゃんの身体が1番大事なんだから」
あの後、守沢千秋は買い出しという名目であんずちゃんの部屋を追い出した。
ベッドで横になったまま眉を下げるあんずちゃんのおでこの冷えピタを取り替えつつ、状況を確認する。
「守沢には何もされてないよね?あんずちゃんは女の子なんだから、無防備に男の子を部屋にあげちゃダメだよ」
「……ふふ、はぁい」
「あんずちゃん?」
不自然に笑ったあんずちゃんにどうしたのと尋ねると、あんずちゃんはにっこりと爆弾を落とした。
「名前先輩、なんだかんだ守沢先輩のことが好きなんだなって」
「……はい?」
いや待ってあんずちゃんそれは誤解だよ!?
*****
帰りは俺が送っていこう!などと言い放った守沢千秋の誘いを断れなかったのは失敗だった。
守沢のバイクの運転はまぁ悪くないし、色んな意味で疲れていたから送って貰えるのはありがたいかもと思ってしまったんだ。そんな数分前の私を殴り飛ばしたい。
目の前には守沢千秋の顔。意外とキレイな顔をしている、唇も意外と柔らか……って、そうじゃない。
1歩下がろうとしたら、腰に回された手でグイッと彼の方に引き寄せられた。いや待って、マジで待って。
「……あの。守沢?」
「っ、!?あああああすまないつい手が出て、いや誰彼構わず手を出しているわけでは無いんだ!本当だ!!!」
「っ……ざけんなバカ!!!」
どうやら無意識の行動だったらしい。守沢は土下座して謝ってきたけど、勝手に涙が溢れて止まらない。
仮にもアイドルでしょうに、道端で女の子にキスして泣かせてんじゃないよバカ。いや泣いてんの私だけど!
感情がぐるぐるして何もわからなくて、さっさと踵を返して家に入って鍵をかけた。涙が止まらない理由はわからない。最後に見えた傷ついた表情の守沢の顔だけが、ずっと、離れなかった。