近すぎて見えなかった


俺は、名前との毎日が日常になりすぎて、彼女がどれだけ大切な存在なのか忘れていたようだ。
アイスクリームを幸せそうに食べていたあの夏の日、確かに俺は彼女に恋をしていたはずなのにな。
久しぶりに回された腕の感触に恋心が蘇ってきたというか、改めて好きだと再認識したというか、ともかく。
俺は名前の事が本気で好きなんだ。

「それを俺に語られても困ってしまうなあ?」
「すまない……だが、本当に気の迷いとかではないんだ!俺の名前への気持ちは本物なんだ」
「だが、本人には伝わっていないようだしなあ。いくら喚いても現実は変わらないぞお」
「くっ……やっぱり、そうだよな」

真面目に話をしようとしても避けられ続け、ようやく話が出来たと思ったらこれである。
ちなみに俺は今三毛縞さんに担がれたままどこかへ運ばれている途中だ。本当に穴に埋められてしまうのだろうか、それはちょっと勘弁願いたいところなんだが。

「ひとつ、いい事を教えてあげよう!」
「三毛縞さん?急にどうしたんだ?」
「名前さんは誰とでも仲良くしているし、プロデューサーとしても優秀。恋人になるのは難しいと思うぞお」
「……それは、わかっている」
「でも俺は、名前さんが一番いきいきしているのは千秋さんと居る時だと思っていたんだなあ」
「……んん?それはどういう、」

聞き返しても三毛縞さんはそれ以上何も答えてくれなかった。



*****



「ちょっとちあくん!名前を泣かせたってホントなわけ」
「せ、瀬名?目が怖いんだが」

名前を探してニューディの事務所に向かう途中、瀬名と鉢合わせた。
凄い形相で睨まれて思わずたじろいでしまう。

「それで?十分反省したわけ?ただ無計画に会って謝りたい〜とか思ってるなら名前には会わせてあげないから」
「えっ」

無情な一言に思わず抗議の声が上がる。
というか瀬名は一体名前の何なんだ……?

「少しは名前の気持ちも考えてあげなよねぇ。俺があんなこと言われたら絶対ちあくんのこと許さないと思うけど」
「……ん?」
「なに?」

ちょっと待て。
俺はあの日、名前に突然、き、キスをしてしまったことを謝らねばと思っていたのだが。言い訳はすれどきちんと謝れていないし、名前が怒っているのもきっとそれが原因だろうと思っていた。
……違う、のか?

「名前は、俺が言ったことに対して怒ってるのか?」
「……それ以外に何かしたのアンタ」

瀬名の冷たい視線が突き刺さる。もはや逃げたいレベルだがここで逃げるのはよろしくない、ヒーローは逃げたりしないはずだ、うん。ここは正直に告白したほうが良いだろう。

「いや、その、……つい勢いに任せて、だな。気づいたら、その……名前の唇を」
「はああああああ!?ちあくん万死。もう一生名前の前に顔出さないほうがいいんじゃない」
「それは本当に悪かったと思ってるんだ!!だが俺もずっと好きだった名前とあんな密着して気分が盛り上がってしまったというか!」
「……は?」

不意に高い声が割り込んだ。
ぎょっとして振り返れば、そこには名前の姿。

「っ、名前!?いいいいいつからいたんだ!?」
「守沢、私のこと好きだったの?」
「そっそれは、その、確かに最近は友達として仲良く〜って感じではあったが、俺は前からずっと名前のことが好きだった!」
「っ……、」
「あ、逃げた」

まさかこのタイミングで本人が現れるとは思っておらず慌ててしまう。
包み隠さずに気持ちをぶつければ、名前は何も言わず走り去ってしまった。

「どどどどうしよう瀬名、俺はまた何か間違ったことを言ってしまったんだろうか!?」
「ああもうどうでもいいから追いかけな!あんたらほんとチョ〜うざぁい!!」

瀬名に背中を押されて走り出す。
もしかしたらもう、名前は俺のことなんか嫌いになっているのかもしれない。
でも、俺は名前が好きで。きちんと腹を割って話したい。
このまま避けられ続けるのだけは嫌なんだ。

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