神様、どうか
初めて見たのは小さなころ。
テレビに出ていた同い年くらいの子が自分と同じ境遇で、強く心に焼き付いた。だからこそ、よくわからない社会問題をテーマにしたドラマで分からない単語も多かったそれを、応援して固唾を飲んで見ていたのだが、最終的に教育に悪いからと見るのを禁止されてしまった。あのドラマやあの子がどんな結末を迎えたのかは知らないし、幼すぎてどんなタイトルだったのかもわからない。
唯一記憶にあるのは、自分と似た環境の女の子が泣くのを耐えて、目に涙を浮かべたあの姿だけ。
今に思えば、あれが初恋だったのかもしれない。
幼いながらに自分を重ねた彼女。
でも、そんな記憶も時間が経つにつれ忘れてしまっていた。幼い頃に見たドラマも、彼女のことも。
それを思い出したのは、夢ノ咲を卒業後、事務所に入って挨拶回りをしていた時だった。
ほぼほぼ同じタイミングで事務所に入ったために、顔合わせも兼ねて全員で動いていた。特に意識はしていなかったが、彼女のふと笑った表情が目に入った時、一瞬で記憶が蘇った。
テレビで見たあの時と同じ顔。おぼろげながらもドキドキした記憶。ひとつ零れればどんどんと溢れだし、忘れていた恋心が花開いてしまった。……まさかと思うよね。俺もそう思うよ。ほんとほんと。
その後ずっと接点をうかがっていたが、ついにタイミングがやってきた。
彼女から呼び止められる。
内心ドキドキして返事はおかしくないだろうか、変な挙動はしていないだろうかとテンパっている間に、彼女ーー名字さんが去っていこうとするので慌てて呼び止めた。平然を装ってランチの約束を取り付けられた自分を褒めてやりたい。心が浮き足立つのが自分でもわかって、その日が楽しみでもあり怖くもあった。
入念に下調べをして、脳内で何度もシミュレーションして、万全の体制で臨んだはずのランチ当日。
なし崩し的に、というべきか、ついに、というべきかーー彼女に伝えてしまった。自分の気持ちを、思いを。きょとんとした表情の彼女から、からかってる?なんて返されて、少し申し訳なさを覚える。確かに、いきなり言われても困るだろう。それに俺自身もまだ伝える予定ではなかったはずで、返事を督促するつもりなんて毛頭ないし、そのまま断られる方が怖い。たまにランチができたら嬉しい、なんてスラスラと言葉が口から出てきて、立派に予防線を張ってしまう自分の器の小ささに自己嫌悪に陥りながらも、冷静に見えるように努める。こんなところで取り乱したら情けない男になっちゃうからね、と活を入れて笑みを浮かべた。彼女の印象が、ここで変わってしまわないように。
「で、どうかな?」
「か……考えてみます」
彼女が何とか出した言葉にはまだ希望が見えて、いるかどうかもわからない神様に祈った。
食事を終えて、二人で洋食屋を出る。行きと同じようなトーンで会話を続けながら、内心彼女に何を思われているのか、またこうして彼女と話せる時はあるのだろうかと恐怖や不安を覚える。初恋は叶わない、なんて言うけど、どうか。どうかこの恋は、叶いますように。