誤魔化すなんてできない

昼間、人魚姫に必要な買い物をしていたら凪砂さんと出会った。人見知りなのか、はたまた彼女が海に還ろうとした一因なのかはわからないが、彼女がすこし怯えて俺の後ろに隠れた風にも見えた。
凪砂さんは彼女について記憶はあまりないとは言っていたので、それに乗じて違和感のないようなさらりと出た嘘に、俺自身が一番驚いた。
本人が望まない限り詮索しないつもりでもあるので、牽制も含めた発言だったが、凪砂さんは眉を下げて彼女に謝っていた。
後ろの彼女はうつむいたまま、一度首を縦に振って、沈黙を通した。きっとそのうつむいた表情は暗いのだろう。最後にごめんね。と残した凪砂さんは別れの挨拶をして、目的のある方なのか俺たちが来た道を歩き出した。どうやら見かけて追いかけてきたらしく、背中を向けて去っていった。煙に撒いてきたのか、彼の傍らに茨さんがいるのがよく見える。
見えなくなってから、彼女に声をかけてみる。怖かったかなあ?問いかけると、彼女は震える手でかろうじてスマホに文字を打ち込み俺に見せる。少し。と言うけれどもきっと、それ以上の恐怖はあっただろうに、そう思うとなんだか苦しくなる。

「気を取り直していこう、きみのことは俺に守らせてほしい。」

スマホを持つ震える手を俺の両手で包んで、彼女の目を見る。彼女は少し震えた目をしていながらも、こちらをとらえて目線が合うと弱く微笑んで俺の手に重ねてくれる。強くありたいと願っているのか、俺が横にいて安心しているのかどちらとも計れないけれども、彼女の眼にはこの間初めて拾ったときの絶望したような顔をしていない。少しづつではあるが歩き出しているのだろう。そうともとれる一面を見て、俺は嬉しくなると同時に胸に少しの痞えを覚える。
彼女はするりと俺の手のひらから抜けて、スマホに文字を打ち込む。よろしくお願いします。と打たれたディスプレイに、一層の喜びが胸の中を駆け抜けた。庇護欲と思い抱いたものは、実はもしかするとそうではないのかもしれないとも思える一撃。
今はそれも見ないふりをして、俺は彼女に買い物の続きをしようと促し、手を引いて歩き出した。
小さな手は未だに気丈に振る舞おうとしているのはよくわかった。彼女の意思を尊重して、従僕なしもべとしてきみを守る。この気持ちは誤魔化すなんてできないだろうし、約束は守るものだから、そうではありたいと俺が願ってしまった。
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