つまりいま香織姉さんは時間的に自分の7時間先を生きているのだから、向こうはとっくに夜中のはずだ。そんな時間に届いたメッセージに、手は自然と発信ボタンを押していた。
さほどコール音が鳴ることもなく繋がる通話に、自然と頬が緩む。
『もしもししゅーくん?』
「やあ姉さん」
電話口の彼女の声はやはり少し覇気がない。
何かあったのかと尋ねれば寂しくなったと素直に告げる姉さんに、優しく声をかける。
「そろそろ一時的に日本に帰ろうと思うから、その時にまた姉さんのご飯を食べたい」
『本当?何が食べたいの?』
思い浮かぶ料理をひとつずつ挙げていく、姉さんが真剣に聞いてくれるのが嬉しくて少し挙げすぎた気もするが、姉さんは変わらず笑っていた。
少しは姉さんの気を紛らわすことができただろうかとほっとする。
『じゃあ、帰ってきたら一緒に食べようね』
「ああ、約束するよ。姉さんは明日も朝から出勤じゃないのかい?」
『仕事だよ。でも、せっかくだしもうちょっとしゅーくんとお話したいな』
……可愛いことを言う。
それだけ姉さんの心を占めているのが自分であるという嬉しさと、それでいて寂しくさせてしまっている申し訳なさで何とももどかしい気持ちになる。
あと15分だけだよ、と時間を区切れば、姉さんは素直に頷いた。
たくさんたくさん話したあと、微かに熱を持っているスマホの通話終了の画面をそっと伏せると、薬指に光る指輪にそっと口づけた。
「……おやすみ、姉さん」
次に会う時には、優しく抱きしめてその唇にキスをしよう。
寂しくさせた分、いやそれ以上に、姉さんに愛を告げよう。
そんなことを考えながらそっと目を閉じる。瞼の裏で、やっぱり姉さんは綺麗に微笑んでいた。