#5.触れたぬくもり
辺りがオレンジ色に染まる頃、ようやく旅行公司が見えてきた。
アーロンの提案で今日はここに一泊。
旅行公司はアルベド族経営だから案の定ワッカは反対してたけどね。
見慣れない澄んだ綺麗な海。
ベストポジションにはユウナがいるはずだから、私は敢えてちょっと外れた場所に腰を下ろして、海に沈んでいく夕日を見ていた。
さっき…街道ではちゃんと誤魔化せたかな…?
アーロンと会ったのはルカだから嘘ではないんだけど、やっぱり出会って間もない女の子をアーロンが連れてるなんて有り得ないよ。
ありきたりな話題でも一瞬なんて答えようか考えてしまうし。
あまり自分のことは話さないでおいた方がいいかもしれない。
…でも…それも怪しいかも…。
その時、背後から足音がして勢いよく振り向く。
「あ…ティーダ」
「よっ」
びっくりした。
魔物かと思ってしまった。
ん?あれ…?
「ゆ、ユウナはいいの?」
「ユウナ?ユウナならさっきあっちでルールーと話してたッスよ?」
ティーダはそう言いつつ私の隣に腰を下ろした。
「へ?そ、そうなんだ」
…ゲームと違う…。
私がいるから…?
「オレには来て欲しくなかったッスか?」
「え!?なんでそうなるの!?」
「だってサラとアーロンいつも仲良さそうにしてるから…」
ティーダは不貞腐れてるみたいに言った。
それがなんだか無性に可愛くて。
「何言ってんのさ〜!アーロンなんて煩い父親みたいな感じだよ?」
「アーロンがオヤジ…想像しただけでもイヤだな」
「でしょ?」
二人で顔を合わせて苦笑い。
なんだろ…ティーダといると楽しい。
自分が異世界から来たことを忘れてしまいそうになる。
この旅は楽しい旅なんかじゃないのに…。
「サラ、みんな知ってることだからサラにも言っとく」
「ん?」
ティーダが言おうとしてることは分かってる。
ザナルカンドのことでしょ?
「変かもしれないけどオレ、ザナルカンドから来たんだ」
「…ザナル…カンド…?」
あくまで知らないフリをする。
「みんなは『シン』の毒気に当たったせいとか言うけど、オレは確かにザナルカンドで生活してた」
どうしよう…。
何て答えていいのかわからない。
「…やっぱこんなこと急に言われても信用できないよなあ…」
「…っ…し、信じるよ!『シン』の毒気なんかじゃなくて本当にザナルカンドから来たって!」
ティーダの寂しそうな顔を見たら、みんなと同じように『シン』の毒気のせいだなんて言えなくなった。
「私もね、ルカに来る前住んでたとこはすごく遠いところなんだ」
「サラ?」
「気付いたらルカにいて、どうやったら戻れるのかわからなくなっちゃった…」
全てを話すわけにはいかない。
だけど…秘密にしようとすればするほど胸が苦しくなった。
同時に元いた世界が急に恋しくなって…。
そんな私をティーダはぎゅっと抱きしめてくれた。
「ティーダ!?」
「大丈夫。サラのいたとこはザナルカンドと違って今もちゃんと存在してるんだろ?…きっと帰れる」
「…うん…ありがとう」
腕の中はとても温かくて、気持ちが落ち着いていくのが分かった。
異世界から来たといっても、スピラのことを多少は知ってる私と全く知らないティーダ。
本当は私なんかよりもティーダの方がずっと不安なはずなのにね。
私も何かティーダの力になれればいいのに…。
「サラ〜、ティーダ!日が暮れると魔物も多いし中に入りなさい!」
旅行公司の方から聞こえるルールーの声。
パッと離れる私達。
ティーダはすぐさま立ち上がり私に手を差し伸べた。
夕日に照らされてか、照れてるのかティーダの顔は赤い。
「ほら、帰ろう!サラ。ルールーって怒ると恐そうッス」
確かに、と笑いながらその手を取って中へと急ぐ。
ティーダはゲームの主人公でユウナのことが好きなんだよ?
私はそこに介入しちゃいけない存在。
そんなの分かりきってることなのに。
私の心はどんどん彼に惹かれていく──
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