02.彼女の名前
シャボンディに上陸して3日。
あの女はまだ目を覚さない。
あの日からというもの余程女が珍しかったのか、クルーが入れ替わり立ち替わり治療室の様子を見に行っている。
その都度、イッカクが邪魔だの騒がしいだの人払いをしていたが。
そんな世話焼きなクルー数人と当然のように船に残ると言ったイッカクを置いて、おれはペンギンとシャチ、ベポを連れて今日も街へ繰り出した。
「キャプテン〜〜〜!あの子本当にここに置いていくの?」
「あァ、このままウチの船に乗せておく義理はねェ」
「でも怪我とっても酷いんだよね?」
「だからちゃんとキャプテンが任せても大丈夫だと認めた医者に引き渡すって言ってるだろ?」
ペンギンの言葉にベポはそうだけどさ〜と何かまだ言いたそうな言葉を飲み込んだ。
ベポの言う通り、女の怪我は見た目以上に酷かった。
何かに襲われたのか、事故にでも遭ったのか、海に身を投げたのか。
なんとか一命は取り留めたが、今後はちゃんとした腕の医者に預けなければ完治しないだろう大怪我だった。
生きていたのが不思議なくらいだ。
「オークションまで少し時間があるし、酒場にでも入って医者の情報を聞いてみるってのはどうっスか?」
「それは名案だが…昼間から酒盛りするつもりはねェぞ?」
「げっ…!」
項垂れるシャチに思わずククッと笑いが漏れる。
何年連んでると思ってやがる。
ペンギンもベポも呆れ顔だ。
だが情報を得るには酒場はうってつけの場所。
辺りを見渡すとちょうど一軒酒場が目に入ったので足を向ける。
中に入れば昼間なせいか夜のような雰囲気はなく、単純に昼飯を食いに来ている連中もいるようだった。
一直線にカウンターに向かい、後ろに立ったベポに鬼哭を預ける。
おれの左右にはペンギンとシャチが腰を下ろした。
「いらっしゃい、兄ちゃん。あんた海賊だろ。その顔は…“死の外科医”…か?」
「あァ…最近はそう呼ばれているな」
「やっぱりそうか!なんでも最近シャボンディにお前さん達を含め、超新星と呼ばれる海賊が集まってきてるって話じゃねェか」
小さめのグラスに酒を注ぎ、ほら、あいつらだ、とマスターは壁に貼ってある手配書を指差した。
そこにはご丁寧に自分を含め、12枚の手配書が貼ってあった。
12枚…?
確か超新星と呼ばれる自分達は11人だったはず。
枚数に違和感を覚え、考えを巡らせていると横からペンギンの声が聞こえてきた。
「キャプテン達って全部で11人じゃなかったですか?」
おれと同じことを思ったのか、不思議そうに手配書を見ている。
「えぇと…確かに1枚多くねェか?う〜〜〜〜〜ん…キャプテンに麦わらにユースタス…ボニー…ん?あれだ。あの女が1枚多い…ていうかあの女どっかで…」
シャチが言うのは一番右端の手配書だ。
おれの記憶でもこいつは超新星にはいなかったはず。
「あれか?あれは昨日届いたばかりの手配書だ。ご新規参入かもな」
おれ達の様子を見てか、カウンターからマスターの声が聞こえた。
昨日?
「あーーーーーー!」
思考を遮るようにベポが大きな声を上げた。
店内の視線が一気に集まる。
「うるせェぞベポ!びっくりしたじゃねェか!」
「すいません…」
「で?どうした?」
しゅんとなっているベポに声を掛ければ、ずいっとおれの前に顔を寄せてきた。
「あの子だよ!今、うちの船に乗ってる!」
「あの子ぉ???ん〜〜〜〜〜?あっ!!本当だ!寝顔しか見てねェからピンと来なかったぜ」
ベポの言葉にもう一度まじまじと手配書を見る。
肩より少し下まで伸びた薄い金髪。
目の色は、手配書だと深い青。
確かに…面影は似ているが…懸賞金は…。
「さ、三億ベリーぃいいいいい!?!?!?」
次に大声を上げたのはシャチで慌てて口元を押さえる。
「キャ、キャプテンより…高い…」
「な、なんなんだよあの女…」
口々に言うペンギン達。
いつの間にか店は静まり返り、遠慮がちではあるが客の視線が向けられているのが分かる。
おれは軽く舌打ちして席を立った。
「なんだ?もう行くのか?」
「あァ、そろそろ時間だ」
この嫌な空気。
早いところ出た方がいい。
おれの後に続きペンギンはポケットから小銭を出すと、それをカウンターに置き後ろをついてくる。
酒場を出て、今日の目的であるオークション会場へ足を向けた。
懸賞金三億ベリーの女…。
懸賞金も気になるが、一番気になるのは手配書に書かれた『ONLY ALIVE』の文字。
一体何者だ…?
戻ったら叩き起こしてやる。
船を下ろすかどうかはそれからだ。
名前は…レイラ…。