03.それは鎖なんでしょう
身体が重い…。
全身が痛い…。
「…っ!?」
ハッとして目を開ける。
全身に激痛が走って思わず声が上がった。
喉がカラカラで声が掠れてる感じから、結構な時間寝てたみたいだ。
そしてピクリとも動かせない体に驚きつつ、首から上は辛うじて動いたので辺りを見回した。
ツンと鼻をつくのはいろんな薬品の匂いだろうか。
腕から伸びる管は頭上の点滴に繋がっている。
ここは病院?
どうしてここに?
そうか、海に落ちたんだっけ。
自らの意思だったから落ちたって表現には語弊があるかもしれないけど。
でもどうやら生きてるみたいで。
誰かが私を助けてくれた。
これが忌々しいあいつらならどうしよう…その可能性もゼロではない。
ふとドアの向こうに気配がしたので、そちらを見るとタイミングよく扉が開いた。
「あ!?起きた!?」
すぐさま私の元に駆け寄ってくる女の人。
白い繋ぎにニット帽を被っている。
とても看護婦さんとは似ても似つかない格好。
「目が覚めて良かった!まぁ治療したのがキャプテンだから目が覚めて当然だけど!」
「あ、あの…」
「あ!ごめんね、私はイッカク。この船のクルーよ」
「船…?」
病院じゃ、ない…?
首を傾げる私にイッカクさんはふふっと笑うと、近くにあった丸椅子を引き寄せ腰掛けた。
「びっくりしたのよ。夜中にいきなり海王類が現れてあなたを置いていったの」
「海王類…?」
「あれ?てっきりあなたと何か関係があると思ったんだけど…」
海王類なんて本でしか読んだことがなかった。
それが私をこの船に連れてきた…?
自分でもわけがわからず頭の中には疑問しか湧いてこない。
「あの…この船は…?」
「この船は海賊船よ。ハートの海賊団!知らない?」
ぐいっとツナギに描かれた海賊特有のドクロのマークを見せてくれた。
「…ごめんなさい、分からない」
「あら、そう…私たちもまだまだってことかしら…」
そう言うイッカクさんにもう一度小さく謝る。
実際に海賊を見るのは実はこれが初めて。
更にいえば、海賊船にこんな病院のような設備があるのも初めて知った。
さっきの話だと私を助けてくれたのはこの船の船長さんみたいだけど、海賊船の船長というのは怖いイメージがある。
その瞬間、嫌な想像が頭を過って思わず首を小さく左右に振った。
「あなたが起きたならすぐキャプテンに知らせなきゃ!あ、そういえば名前、まだ聞いてなかったわね」
「えぇと、私の名前は「すぐに船を出せ!!!海軍だ!!!!」
私の声を遮り、扉の外から聞こえてくる大声に私もイッカクさんもびくっと驚く。
今まで静かだった船の中が一気に慌ただしくなった。
「今の声、ペンギン!?それに海軍って…まずい!ちょっとこのまま待っててね!」
そう言い残しイッカクさんは急いで飛び出していってしまった。
今、確かに海軍と聞こえた。
海軍はマリージョアでも時々目にしていた。
何かの会議だと思うけど、いつもぞろぞろとやってくるのを窓から眺めていたのを覚えてる。
その海軍がここに?
もし奴らに言われて自分を連れ戻しに来たのだったら、この船の人達にも迷惑を掛けてしまう。
でも動こうにも体は動かない。
ドタバタと船内を走り回る足音が聞こえ、船がガタンと音を立て動き出したのが分かった。
窓がないこの部屋からでもかなり急いで船を動かしているのが分かるような揺れ方だった。
◆
しばらくすると船の動きも緩やかになり騒がしかった声も聞こえなくなる。
逃げ切れたのかな…?
再び静かな空間が訪れたと思ったら、ガチャッとドアの開く音がした。
顔を覗かせたのはイッカクさん、そしてその後ろからもう一人…。
「待たせてごめんね!かなり揺れたと思うけど大丈夫だった?」
「イッカク」
「あ!すいませんキャプテン。あのね、こちらこの船のキャプテン!トラファルガー・ロー船長!」
イッカクさんが紹介してくれた人物。
スラッとした細身の長身の男の人。
モコモコの帽子とは対照的に目付きは悪いし、ここからでも分かるくらい目の下の隈が酷い。
紹介されたのにニコリともせずジッと私を見ている。
正直…怖い…。
やはり海賊船の船長というのは怖いものなんだろうか。
「キャプテン、この子は…えぇと…」
「あ…レイラ…です」
まだイッカクさんにも自己紹介してなかったのを思い出して慌てて名前を名乗った。
「イッカク、外せ」
「わかりました。あ!レイラちゃん怪我人ですからね!?」
そんなことを言うイッカクさんを船長さんは睨み付けるけど、イッカクさんは全然気にしてない様子。
そして只ならぬ船長さんの雰囲気に身の危険を感じる私を余所に、イッカクさんは部屋から出て行ってしまった。
気まずい空気が部屋に流れる。
よく見れば手に持ってるのは身の丈程もある刀らしきもの。
益々身の危険を感じてきた。
するといきなり船長さんがさっきイッカクさんが座っていた椅子にドカッと腰を下ろす。
突然の行動に私はビクッ肩を竦ませた。
「おい」
「は、はい…」
「お前は何者だ…?」
「…え?」
何を言われるとかと思えば予想外の質問で。
どうしてそんなことを聞いてくるんだろう。
何者だと聞かれても考える限り大した者ではない、と思う。
「はぁ…質問を変える。これは、お前か?」
ひらりと見せられた物。
それは一枚の手配書。
よくそれを見る。
写真は間違いなく自分。
名前も自分。
下に書いてあるのは懸賞金…?
「いち、じゅう、ひゃく……さ、さんおく!?」
その金額に思わず声を上げてしまった。
恐る恐る船長さんを見る。
「あ、あのこれは…」
「お前の手配書か?」
「そ…うですね…たぶん…でも三億も…どうして…」
「身に覚えがねェか…?」
身に覚えなんてあるはずがなかった。
私は海賊じゃない。
今までマリージョアの外にだって出たことない。
懸賞金を懸けられるようなことなんて尚更。
それに…。
「わ、私はただの…」
「奴隷ってか?」
「…っ!」
言おうとした言葉を先に言われてしまい思わず口ごもる。
そう。
私は奴隷。
マリージョアにたくさんいる奴隷の一人。
奴隷が一人いなくなったところで何だというの。
そんな価値の私に懸賞金が懸けられるだけでもおかしいのにましてや三億。
傷の痛みも忘れて頭の中は混乱していた。