03.待ち続けた面影



あの日以来、部屋の向かいの窓には明かりが灯るようになった。

寿くん退院したんだ。

本人の姿は見ていないものの、そのことを確認するには十分だった。

そしてなんだか込み上げてくるもの。

ついこの前まではあまり気にしてなかったのに。

同じ高校に入学したら以前みたいに距離が近くなった気がしてしまう。

顔を合わせたら昔みたいに話せるだろうか。

湘北に入ったことを知ったら驚くだろうか。

心には不安と期待が入り交じる。

学校には来てるのかな…?

学校は広い。

生徒数も多い。

加えて各学年フロアは階が違ったり棟が別だったりするせいで、登下校の時や移動教室、購買くらいでしか他学年の生徒に出会うことはない。

校内でも登下校の時も寿くんの姿を見掛けることはなかった。

靴箱に上靴を押し込んで、革靴に履き替える。

真新しかった革靴もだんだん汚れてきた。

ふと、三年の靴箱が目に入った。

外靴と上靴が並んでいる。

そっか…私、寿くんが何組なのかも知らないんだ。

はぁと自然に溜め息が出た。

時刻は16時過ぎ。

入学以来、一緒にいた紗也も本格的に部活が始まると放課後は吹奏楽部に行ってしまう。

私はこうして一人で帰ることがほとんどになった。

今日も大人しく帰ってテレビでも見よう。

そう思って校門へ歩き出す。

その時。



「…うわ」



集団が入って来たのだ。

遠目で見てもガラが悪いことは雰囲気から一目瞭然だった。



「え…?」



目を疑った。

中央を歩く人物。

長い髪。

制服のスラックスに長袖の白いTシャツ。

マスクで顔の半分が隠れている。

それでも。

久々に見た姿だったけど見間違えるはずがなかった。

私の足は止まる。

少しずつその人は近づいてくる。

ドクン、ドクンと心臓が脈打つ。

二年前より身長差が出来ていた。

バチっと目があった瞬間、その人の目が見開かれる。



「ひさ…っ…」



思わず声が出ていた。

でも目があったのは一瞬で。

見開かれたと思った瞳は元に戻って、すぐに目線は合わなくなる。

まるでスローモーションのように私の隣を通りすぎて行く。



「三井君知り合い?」



集団が通りすぎる時、そう聞こえた。



「あ?…知らねぇな」



二年振りに聞いた声。

それは以前より低くて、冷たかった。

会えて嬉しいとかそういう感情はどこにもなくて。

ただただ私は呆然としていた。

足が、動かなかった。



「…っ…」



遠巻きに見ていた他の生徒が門の方に歩き出したのか、後ろから追い抜かれてやっと我に返る。

振り向いた先にもう寿くん達の姿はなかった。

追いかけようなんて気は微塵も起こらない。

私は予定通り下校を選択した。

駅まで歩いて、電車に乗って、最寄りで降りて、家まで帰る。

まだ上手く頭は働かない。

部屋のドアを開けて、ベッドに崩れ込んだ。

昔みたいに…と思っていたのは自分だけだったのかもしれない。

寿くんは見た目は変わってしまったけど、会えばきっとまた昔のような関係に戻れると心のどこかで勝手に私が思っていただけ。

淡い期待だった。

もう昔とは違う。

二年ですっかり別人になってしまった。



『知らねぇな』



さっきの言葉が頭の中で繰り返される。

ぎゅーっと心臓が締め付けられるような感覚。

自然と涙が溢れてきた。

なかなかその涙は止まらない。

目を拭いつつ、起き上がる。

カーテンを開けると見える隣の家の窓。

当然のことながら電気はついていない。

窓に手をやる。

こんなに近いのに、ものすごく遠く感じる。

また頬を涙が伝った。


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