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「おかえりー、ってあー!一松兄さんが女の子拾ってきたー!スーツ着てるー!OL!?オフィスレディ!?ナンパ!?ナンパしたの!?」


 玄関を開けた瞬間駆け寄ってきたのは二人居る弟の上の方、十四松だった。僕が肩に担いでいる女の子を見ると、一際テンションを上げてつついてくる。女と聞けば一際敏感なおそ松兄さんやトド松、ウザさで言えば宇宙一のクソ松じゃなくて安心した。


「十四松… 苗字さんとこの子、覚えてない」
「うん!名前ちゃん!…名前ちゃん!?この子名前ちゃん!?」
「…らしい。苗字さんちって分かる?」


 名前ちゃんと遊んでいたのは本当に小さい頃だけで、僕達兄弟の中でも彼女の家に誘いに行っていたのは十四松ぐらいだった。


「名前ちゃんちー?えーっと、えーと…どこだっけ?」
「さすがに覚えてないか」


 その十四松ですら覚えてないとなるとどうしたもんか。起きるまで適当にうちに転がせておこうか。女に飢えた兄弟達が厄介そうだけど。


「ニート達、何してるの?早く上がってらっしゃい…ってあら、名前ちゃんじゃない」


 玄関先で騒ぐ十四松の声に気付いた母さんがこっちに来た。丁度いい。僕達の朧気な記憶よりも母さんの方があてになるだろう。


「…母さん、こいつんち知ってんの」
「名前ちゃん、今はご両親と少し離れて一人暮らししてるけど…それでもここの近くよ」
「名前ちゃん自立してんの!すっげー!」


 垢抜けた見た目からも分かってはいたけどやはりと言うか、クズで最底辺の僕達とは住む世界が違う。肩に担がれて間近にある寝顔はあまり歳を取った感じはしないが、僕達を見下す側の真人間になってたんだ。


「それより、名前ちゃんはどうしたの?」
「路地裏で拾った。……酔っ払ってたから」
「あら、それは危ないわね…見た感じまだ酔いは覚めてないみたいだし…夜道を一人で帰すのは不安だわぁ」


 わざとらしく頬に手を当てる母さん。何か言いたげっていうか、圧力を感じる。ああもう分かったよ。


「……送ってくる」
「うわー!まじすか!?一松兄さんやっさしー!」
「別に。母さんに言われたから仕方無くだし」
「えっ!言ったの!?聞いてなかった!」


 まぁ直接送れと言われた訳じゃないけど。母さんは余計な口を挟まずにニコニコしている。母さんからしたら僕が自主的に送ろうとしてる様に見えるだろう。


「名前ちゃんちはあの角を曲がった所にあるマンションよ」
「………ん」
「一松兄さんいってらっしゃーい!つーか名前ちゃんすっげー可愛くなったねー!」


 十四松はついつい、と眠る名前ちゃんの頬をつつく。白くて滑らかな肌、長くて下を向いた睫毛。華やかなトト子ちゃんとは少し違う大人しめの顔立ち。


「……そう?普通でしょ。これくらい」


 普通だ。普通に可愛い、と思った。




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