ナイト・オブ





 お家デート、もといバイクに乗る特撮ドラマ鑑賞会に誘われた僕は彼女とのファーストコンタクトを思い出していた。例のスタバァでバイト、そして女の子達から合コンに誘われたあの一連の事件の時である。


「…苗字です」


 人数合わせで呼ばれました、と小さく付け足したその女の子はオレンジジュースに浮かぶ氷に目線をずらした。そっけなく苗字だけを名乗り、人数合わせと自称して場を凍らせる。顔は悪くないのに、なんて愛想の悪い子だと思った。まぁ、足枷の兄さん達が居るからどんな子が居ようと関係無いか、と死刑執行を待つ気分の僕はあまり気にしない様にしたんだ。


 ―――で、実際手酷くやられたんだけど。僕の現状については割愛するとして、問題はその後。


「…っは、あっははは!ば、ばな、バナナ耳に刺さってる!ほんとに刺さるんだ!すっご!初めて見た!ねぇねぇトッティだっけ!?写メっていーい!?」


 さっきまでの帰りたいオーラはどこへやら、高らかに笑いながらスマホを構えて連射音を響かせる苗字ちゃん。


「………えー?何この子…」
「苗字ちゃんだっけ?確か酒飲んでないよね?テンション全然違くない?」


 これには悪魔共も困惑だった。女の子をドン引きさせて僕に対する制裁のつもりだっただろうに、結構可愛い部類の女の子が食い付いてきたんだから。


「あはは、私バナナ好きなんですよねー。強者って感じで」
「え、何それ下ネタ?俺のバナナもどう?」
「あ、そういうのじゃないんで」


 おそ松兄さんが面白がって絡みに行くがそこは塩対応で肩に置こうとした手を払っていた。っていうかバナナが強者って感じってどういう事だ。少し前にやっていたバイク乗り、そのライバルキャラのモチーフだったと知るのはもう少し後でその時は分からなかった。


「計算外だよ…普通引くでしょこれ」
「何かわからんけど凄いウケてるぞ…さっきまであんなにつまんなさそうな顔してたのに…」


 悪魔共は一様に理解出来ないと言いたげな顔。僕も意味は分からなかったけど、引く所か向こうから笑いかけて来たので心底驚いた。


「はー、合コンなんて死ねって思ってたけど面白いもの見せて貰っちゃった」


 一頻り笑った後、オレンジジュースを傾けながら、苗字ちゃんは正座していた足を投げ出してリラックスした。


「…そういや、人数合わせって言ってたね」


 兄さん達も諦めたのか、各々酒とつまみに意識を向けて普通に宴会と化した空間、僕も最初のお洒落服に戻って、やっと普通に話せる様になった。


「そー、人数合わせ。引き立て役にされるのバレバレだって話だよ」
「えー?苗字ちゃん十分可愛いのに」


 実際、散々笑って表情筋が解れたのか柔らかくなった苗字ちゃんの笑顔は滅茶苦茶可愛くてドキッとする。引き立て役には文字通り役不足って言うか、成り立たないんじゃないの。


「トッティお上手ー!あの子らの引き立て役になるの癪だったから結構決めてきたんだー。でもやっぱ雰囲気合わないから早く帰りたくて。でもトッティのお陰でいい思い出になったかもー」


 からから笑う苗字ちゃんはさっきまでの刺々しい雰囲気は影も形も無く、合コンって場が嫌いなだけで結構明るい子なのかもしれない。トト子ちゃんもそうだけど、明け透けな女の子っていい。明け透けだからこそ、醜態を晒した僕へのこの態度が嘘じゃないと分かって、もう女神かって話だよね。
 どんどん膨れ上がる好感に自分で戸惑いつつ、この場が終わって彼女とはいさよなら、ってなるのは本当に嫌だと思った。いつもの常套句を思い浮かべ、口にする。


「……あのさ。良かったら連絡先教えてくれない…?」


 帰り道、追加された「名前」という名前を眺めてにやつく僕を兄さん達は心の底から面白くなさげに睨んでいた。



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