※鬼夢主。
※性表現を含むので18歳未満の方や責任の取れない方は閲覧を御遠慮ください。



蜘蛛は嫌いだ。人間だったときの記憶はないが、きっと私は人間の頃から蜘蛛に好意的な感情を抱いたことはなかっただろうと確信している。
何故って、まず糸がいや。くっついて離れない。煩わしい。あと、形もいや。暗闇に潜んでいると見せかけて案外近くにいたりするのもいや。もう存在がいや。叶うことなら見たくない。
どうせ叶わないけど。私は身体にまとわりついた糸に視線を向けて、無理だろうなと思いながら身体を捩った。蜘蛛の糸は私の着物に更に絡まって、分かっていたけど落胆してしまった。初回じゃないし、もう諦めるのが早い。
蜘蛛の糸は私の両足を開く。ああ、やっぱり今日もやるんだなと思って唇を噛み締めた。いくら痛い思いをしても、私は鬼だから死ぬことは無い。股が開かれて着物の裾がみっともなく左右に割れる。恥ずかしさはない。何回目だと思っているのか、まぁ私も忘れてしまったが、忘れるほどやっているので。

「いま」

私が言葉を発したので、私の着物の襟に手を伸ばしていた累がこちらを見遣る。私のものと同じ赤い瞳が続きを催促している。私は喉を潤してから、再度口を開いた。

「急に夜が明けたら、私たち、死んじゃう」

「明けないよ。馬鹿なことを言わないで」

「明けるかもしれないでしょ。分からないよ」

私が鬼になるくらいなのだから、何が起きるかなんて分からない。少しあわてんぼうの太陽が早めに顔を出すことだってあるかもしれない。
催促してきたくせに私の反論は無視することにしたらしい累は、私の着物の襟を乱暴に掴んでぐっと引き下ろした。乳房が夜風に晒されて寒い。寒いからだというのに、私の乳首を見て目元をゆるめた累が、私の頭を蜘蛛の手で撫でる。

「触ってほしいの?よく自分からできるようになったね」

「累がそう思うなら、それで」

「言い方が気に入らない。どうして?君は僕の奥さんでしょ?」

どうしてと聞かれましても。私は困ってしまって目を閉じた。累の手は私の頭から耳、首筋、鎖骨のあたりを通って乳房に向かう。
乳房の横のあたりをふわふわと押されて息が詰まった。やわいふくらみにそって手のひらがまるく移動する。感触を確かめるように指でぐっと押される。
私は妻役であって母役ではない。お乳が欲しいなら母役の子に迫ればいいのに。

「なまえはやわらかいね」

「ありがとう」

「かわいいね。きっと良くしてあげる」

「嬉しい」

累の蜘蛛の唇が私の口を塞いだ。やわやわと下唇を累の唇で挟まれて、くすぐったいと感じて口元を緩めるとすぐに累の舌が口の中に入ってくる。拒否なんてしたらひどいことになるので、私は彼を快く受け入れる。
ああ、私は今、蜘蛛の鬼と接吻をしているんだなぁと考えたら悲しくなってきた。なんといっても、私は蜘蛛が嫌いなのだ。そんなことを知っているのか否か、当の蜘蛛の鬼は熱心に私の舌を探るばかりで、私は口内に溜まった唾液を飲み込む。
累はきっと、多分、恐らく。妻役である私をある程度は好いていてくれているのだろう。それは招かれたときに累の指定する姿に変わったからか、ある時から反抗するのを一切やめたからか、妻は愛さねばならないという制約を本人なりに守っているのか、どれかだ。鬼なんだから愛なんて、そもそも妻だの旦那だの家族だの、ちゃんちゃらおかしい。
だからって、私にはどうしようもないなと思った。累は私の股ぐらに指を添える。足の間を累に掻き回されるのはいつまで経っても慣れない。身体がこわばる。

「大丈夫。なまえ、僕に任せて」

「痛くしないで」

「しないよ。なまえは奥さんだから」

累は累の思う夫婦を演じることを私に強要する。だから私は、累が以前そう言えと指示してきた言葉を返す。
細い指が私の体内に侵入して、私は息を吐いた。身体の力を抜かないと、痛いのは自分だから。鬼ではあるけど痛い思いは極力したくない。
加減を知らない鬼の指が私の中を好きなように動き回る。身体の奥が圧迫されて、なにやら苦しくて吐息が零れた。ぐいぐいとどこに当たるのか分からない部分を執拗に撫で擦られている。ぞわりとして股を締めると、累の指が上の方を奥から抉るようにして私の中から出ていく。
そしてまた入ってくる。くちゃくちゃと粘ついた音が響いている。気持ちをどこに置けばいいのか戸惑いながら累を見ると、彼は私の中をぐちゃぐちゃにしながら、私の胸にすりよった。累の髪が私の裸の胸をくすぐる。
私はどうしてか、笑ってしまった。累が乳房の輪郭を舐めて、おまけみたいにくっついている乳首に唇を寄せる。ぺろりと舌が這って、ちょうど私の中を探る指もひときわ強く上部を擦って、私はぎゅっと足の指を丸めた。得体の知れない感覚が腰から脳にぴりぴり伝わって、頭がふわっとして息がしにくくなる。指が抜かれる。

「なまえ、そろそろいいかい」

ぽかりと穴が空いたような感覚があった。奥の方がぞわりぞわりとさらに刺激を求めている。私はきゅうきゅう勝手に力を入れたり抜いたりする膣に驚いて首を傾けた。なにかが出てしまいそうで、さすがに漏らすのはいやだったのできゅっと締める。

「なまえ」

「あ」

累が私の頬に手を添えた。返事をしていなかった。慌てて言葉を返そうとするが、その前に累が再度私に口付けをしてきた。舌を舐め取られてぽやんと目を閉じてしまう。
返事をしていなかったけど、累は了承をもらったと解釈したみたいだ。ゴソゴソと衣が擦れる音がして、私の股に指ではない質量と熱を持ったものが宛てがわれる。それはぴったりと私の入り口にくっついていた。誂えたかのようだった。ひくひくと意識していないのに私の膣は累のものを待ち望んでいて、とろりとよく分からない液体をこぼした。

「いれるよ」

「はい」

「なまえ」

「……ん、」

指でかき混ぜられていても累のものはすんなりとは受け入れられない。ぐっぐっと押し込むようにみちみち入ってくるので、私はやっぱり痛くて涙を流す。喉に電信柱でも入れているかのような感覚だ。累は私の目から垂れた涙を舐める。
あらゆる部分が押されて圧迫されている。ヒリヒリと熱さにやかれて膣が自然と蠕動する。私の身体は累を奥に誘っているのだなと思った。心と身体の意見が合わない。
累が少し引いてからぐっと押す動作を繰り返す。その度に蜘蛛の糸に捕らわれた私の身体は情けなくも上下に跳ねた。辛くて累を見ると、彼もとても辛そうな顔をしていた。なんなの、辛いならやめたらいいじゃん。

「累」

「……はっ、なに、」

「怒らないで聞いて」

「……なに」

「累、辛そうな顔、してるから。嫌なら、やめよう?子ども、できないし」

「やめない」

キッパリ応えた累が私の尻を掴み、勢いを付けて私の奥に叩きつけた。指では届かない身体の奥の奥を突然強く押された私は息ができなくなって戸惑う。二度三度と力強く突かれて、私はたまらなくなって仰け反った。晒してしまった首元に累が噛み付く。痛みを感じない。
臓器がぐいぐい押されている。鬼になって必要なくなった子宮のあたりが、餅つきみたいに遠慮なく叩かれて悲鳴を上げている。喋りたくもないのに『あっあっあっ』と上擦った声が止められない。視界がちかちかとする。

「なまえ、なまえは、僕のお嫁さんでしょ」

「あっあっふっあぁっ」

「愛しているよ」

「んぁっあっあっんぅ、」

「答えて、役目でしょ」

「ひあっ、あっ、る、あ……しも、あっ、して、」

「……ありがとう、嬉しいよ」

まだ奥があったのかと思うほど奥に押し付けられて、ぐりぐりまだ更に奥を目指して抉られる。意識があやうい。ひりつく入り口とは反対に、奥はずっと累の精液を求めてうごめいている。涎も涙もダラダラと垂れる。累の律動にびくともしない蜘蛛の糸に謎に感心した。
答えろと言われて紡いだ言葉はもう言語になっていなかった。飛びかける意識を繋ぐことすらしなくていい気がして、私は大人しく目を閉じる。
愛しているなんてよく言えたものだ、私が蜘蛛が嫌いだということすら知らないくせにと内心笑いながら。