No.11
「−−えっと、卵でしょ……じゃがいも、玉ねぎ、あと葉モノ……キャベツかレタスか白菜……キノコ類は冷凍きくから、ブツブツ……。」
キッチンのカウンターで昨日食料庫や冷蔵庫を見て一通りリストにしたメモを見返す。
キッチンの窓から見えているのは昨日までの深い青の世界じゃなくて、カラッとしたまぶしい水色の空と、白い朝日。
絶対に水面に浮上する瞬間を見るんだと意気込んでいたのに、私が寝ている間に海面に出ていたらしい。
「準備できたか?もうすぐ島に着く。」
「はい、ペンギンさ……?!」
「ふ。おかしいか?」
「……いえ。」
声のする方を見上げびっくりした。
目の前に居るペンギンは、ユニフォームのつなぎを着ておらず、トレードマークの帽子も被っていない。
ラフな黒いTシャツとジーンズに、真っ黒の髪の下にはいつも帽子のつばで隠されることの多い切れ長でクールな瞳が見えた。
「上陸のときは、皆さん私服なんですか。」
「そんなわけないだろ。」
「え?じゃあ……。」
「デートだからな」
「へっ?!」
「冗談だ。」
じょ、冗談か。てゆーか、この人冗談とか言うんだ。
普段絶対冗談を言わない人がいきなり言うと本気かどうか分からなくて焦ってしまう。
「つなぎのままだと目立つ。ハートのクルーだと宣伝して歩くようなもんだからな。買い物には不向きだ。お前も最初に服から調達するぞ。先に着替えておいたほうがいい。」
「ああ、なるほど。」
納得してペンギンを見ると、少しだけ笑ってこちらを見た。
「甲板に出てベポと待ってろ。俺は操縦室を他のクルーに任せているからそちらに行ってくる。」
「はい。」
ペンギンは私の髪をくしゃりと掴むように撫でるとキッチンを出て行った。
私も、目の前のメモを丁寧に折りポケットに仕舞うと、ピョンとカウンターチェアから飛び降り甲板へ向かった。
「ハルー、こっちこっち」
「ベポ!」
「ハル!みて、ほら。次の島だよ!」
「わ、もう、ホントに近くに見えるのね。」
「ハルは買い物でしょ?」
「うん!とりあえずね。着替えとか今のところ不足してるものだけ少し買ってもらうつもり。」
「ふーん。」
「ベポは?」
「俺はいっぱいお菓子買うんだぁー。キャンディでしょ。あと、クッキーとかグミとか。あ、チョコは絶対だよ!」
「そっかぁー、それも楽しそうね。」
白熊さんは甘いものがお好みらしい。
素敵な買い物プランを聞かせてもらってると、砂浜がズンズン近づいてきて、ついには船が止まった。
「あ、ついたみたいだね。」
「わぁ。砂浜真っ白。綺麗な島ね。」
後ろがざわつき始めたので振り返ると、甲板にクルーが沢山集まっていた。
少し高いところにキャプテンが立ち、その後ろにペンギンが居る。
周りから「え?あれ、ペンギンさん?」「うわーめずらしー」という声が聞こえる。
キャプテンが、ペンギンに目をやると、ペンギンが張りのある声で「静かにしろ」と言った。
ざわついていた甲板は水を打ったように静かになる。
その様子を確認し、キャプテンが徐に口を開いた。
「上陸だが、最初に……そうだな、ロイ・テオ・ショウ、お前ら三人先に下りてこい。30分で戻れ。その後ログの溜まる時間によって船番を決める。……ハル!」
「はっ、はい!!」
「食材と備品の買う物メモったか。」
「はい。」
「じゃあ、キャス。それお前行け。」
「えーーー!!俺、女買いに……」
「そうか、じゃあ、今回お前の上陸はなしだ。」
「ああああ!嘘です嘘です行きます行きます!行かせてくださいお願いします!!」
「最初からそう言え。荷物もちにあと数人連れて行けよ。じゃあ、一旦解散。ロイ達が戻ったらペンギンの元へ全員集合しろ。わかったな。」
「「「「はい!」」」」
また再度ザワつきながら皆散り散りに動き出す。
周りが動き出している中、明らかに落ち込んでいる様子で立ち尽くしているキャスケットが見えた。
「キャ……キャスケット。」
「……ああ。ハル。」
彼の悲壮な様子に途端に申し訳なくなってきた。
「ご、ごめんなさい、キャスケット。あの、やっぱり買い物は私が……。」
「いや、いいんだ。ハル。今回の停泊はお前の為のようなものだし、お前に行かせるわけにいかないよ。」
メモかして。とキャスケットが出した手に、ポケットから折りたたんだメモを乗せた。
「あのね、お酒のストックは何がどれくらい要るのかよくわからなくて、メモに書いてないの。」
「ああ、大丈夫。それは俺毎回行ってるからいつもと同じくらい買ってくるよ。」
「うん。じゃあ、お願いします。」
「おう。」
最後は笑顔を見せてくれたキャスケットにホッとした。
「ねぇ、ロイさん達は何で先に降りたの?」
「ああ、ログの溜まる時間と、治安や海軍の情報収集、あと酒場と宿の位置の確認だな。」
「へえ、それで帰ってから船番決めるって言ってたのね。」
「そうそう、とりあえず今回ばっかりは数時間でログが溜まるってのは勘弁して欲しいぜ。」
「ああ、キャスケット、女の人を買いに……」
「ストップ!!お前がそういうこと言うな!」
「だって、さっきそう言ってたでしょ。」
「ちがう!いや、そうなんだけど、女がそういうこと言うもんじゃないぞ!」
なぜか慌て始めたキャスケットが面白くてクスクス笑うと、顔を真っ赤にした彼はなにやらモゴモゴ言いながら足早に去っていってしまった。
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