No.13




レストランに入り、席に座ってランチを注文した。

あまり大きい街ではないので距離的にはそんなに歩いていないが、なんせこんな買い物の仕方は初めてだ。
荷物も全てペンギンが持ってくれてずっと手ぶらで歩いていたのに、足はパンパンでかなり疲れた。


「あとは、家具屋か。この分だと早く船に帰れそうだな。お前も疲れただろうがもう少し頑張れ。」

「はい。大丈夫です。……あ、船に残ってる皆ご飯どうしたかな。」

「船長が船に居るし、誰かテイクアウトで何か買いに行ってるだろ。外に居るときまで飯の心配するな。」

「いえ。仕事ですから……って、キャプテン船に残ってるんですか?」

「ああ。」

「……なぜ?」

「俺の私服と同じ理由だ。」


キャプテンは、当然とっくに島に降りているものだと思っていた。
不思議に思ってペンギンに問うと、全然答えになっていない答えを返されてしまった。
頭に“?”を浮かべると、ペンギンはフッと笑って言葉を続けた。


「船長としては、今回の上陸はお前の為なんだ。あの人は顔が割れているから、街に出れば噂が立つし、多かれ少なかれ命知らずの馬鹿が沸く。
お前の買い物が済むまでは、面倒がないようにしたいんだよ。」

「そうなんですか……。」


なんだか私、買い物するだけで色んな人に迷惑を掛けているみたい……。


「あの人は、本当はお前の買い物だって、俺に行かせないで自分で行きたかったはずだ。」

「そうでしょうか。なんだか、キャプテンはこういうの面倒くさがりそうです。」

「フッ。まぁ、そういうワケだから、お前も変な遠慮しないで、あの人の意向に沿ったようにしてやってくれ。」

「キャプテンの意向が、私が沢山お買い物することなんですか?」

「まぁ、今回の場合はそういう事だな。」


そう言って、彼は運ばれてきた熱々のハンバーグにかぶりついた。

あとは、家具を選ぶだけなのですぐ終わると思っていたが、これが意外に大変だった。

まず、ペンギンのお眼鏡に適う家具屋が少ないのだ。
流行のラインのデザインで、お手ごろ値段の大量生産家具を置いている若者向のショップなどは目もくれなかった。

彼が目指す場所は、ちゃんと家具職人が一つ一つ手作りしている家具屋。しかし、デザインも古臭いようなものばかり扱っているようではいけない。
やっと彼が入っていった家具屋は、小さな椅子一脚で目玉が飛び出すような値段が付いていた。


「ぺ……ペンギンさん……。」


こんなに高い店やめましょうよ〜……私が冷汗を流しながら話しかけても耳を貸さずペンギンは真直ぐ店主の元へ歩いていった。


「この子が使う家具が欲しい。一応ベッドとクローゼットは最低限に必要だ。ハル。」

「は、はいっ!!」

「あとは、どうする?ああ、鏡も必要だな。主人、姿見もな。ハル、他に要るものを言え」

「えっ、要るものといわれましても……。」

「またか。金は気にするな。好きなものを選べ。」

「あ……じゃあ、お店の中見せてもらいます。」

「ああ、そうしろ。」


買う気満々のペンギンとは対照的に、私はすっかり気おくれしていた。
お店のご主人が、ペンギンに言われたベッドとクローゼットと姿見をいくつか見せてきたので、とりあえずそちらを先に選ぶことにする。

極力値段は見ないように努め、白っぽいナチュラルな無垢材を使ったシリーズで揃えた。
(“極力”みないようにしたが、濃い色の木材のシリーズは私が選んだものの倍の値段がして後で密かに震え上がった。……選ばなくてよかった)

ペンギンが、お店の主人に後で船に配達してくれるように手配している間に、家具を選んでようやく気が楽になった私はお店をブラブラ見て回った。

その中に、フワフワの白い毛皮のソファがあった。白い中に小さな黒い斑点があり、まるでキャプテンの帽子のような柄だった。
1人用と2人用の二つの大きさがある其れは、脚の部分はさっき私が選んだ家具と同じ素材の木で、丸みを帯びてぽっこりしたシルエットはなんとも可愛かった。
さわり心地がベポみたいで、思わず撫でたくなる。


「欲しいのか?」


いつの間にか背後に立っていたペンギンに慌てて首を振った。


「いえ!!少しベポみたいって思っただけです。」

「そうか?……ほんとだ。」


私の言葉にソファーに手を伸ばしたペンギンもクスリと笑った。


「ペンギンさん。……あの、今日はありがとうございました。船に帰りましょ?」

「そうだな。」


私も微笑みながらペンギンに言うと、私の頭を一撫でして同意してくれて、やっと買い物が終わった。
船に戻ると、あの大量の洋服はとっくに船に運ばれていた。

甲板に降り立つとすぐにベポが気づいて駆け寄ってきてくれた。


「おかえりーハル!」

「ベポ、ただいま!」

「わぁ、ハル!そのワンピース可愛いね。似合うよ!」

「ありがとう!ねぇベポ、ベポに似たソファーがあったんだよ」

「えええー、ヌイグルミじゃなくてソファー?初めて言われたよ。」

「ふふふ。」

「戻ったか。」


家具屋のソファーを思い出してベポを撫でていると、後ろから声が掛かった。


「キャプテン!……ただ今戻りました。」

「はは。疲れた顔をしてるな。」


キャプテンが私に手を伸ばし、おでこに掛かった前髪をかき上げてそのまま頭を撫でてくれた。


「キャプテン……今日、沢山色々買っていただきました。全部大切に使います。ありがとうございます!」


頭を下げると、キャプテンは目を細めて私を見つめた後、もう一回私の頭を撫で、「ああ。」と短く返事をして船の中に入っていった。

とても大変だったが、沢山お金を使ってもらって、沢山良いものを買ってもらって、凄く凄く感謝していた。
感謝を言葉にしてみても、なんだか自分の気持ちの半分も伝えられてない気がして、残念な気持ちでキャプテンの背中を見つめた。


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