No.14
日が暮れ始めた頃、家具屋のご主人が家具を配達してくれた。
船長室の隣の空き部屋が私の部屋になったので、そこまで運んでもらった。
想像以上に広い部屋だったので、ベッドとクローゼットを入れてもまだまだ広い空間がある。
今度お給料がもらえることがあったら、可愛いラグマットでも敷こうかな。
生地屋さんでコツコツ可愛いハギレを集めてパッチワークで作るのも良いかもしれない。
あれこれ考えながら大量の荷物の整理に手をつけはじめた。
「ああ、なかなか良いな。」
不意に聞こえた低い声に驚き顔を上げるといつの間に部屋に入っていたのか、入り口にキャプテンの姿があった。
「お前にしてはいい趣味だ。」
「はい。すごく気に入っています。」
目の前のクローゼットの木目を撫で、微笑んでキャプテンに言った。
シンプルながら白に近いくらい薄い色の木の家具は、潜水艦の冷たい感じすらする部屋に、少しだけ女の子の部屋の温かみを運んできてくれていた。
「これから、クルーの奴らと酒場に行く。お前も来い。」
「いえ、片付けもありますし、船番や船に残ってるクルーの食事も用意したいので。」
「奴らもメシくらい適当に調達するだろ。島に停泊中は基本的に休みだ、お前も仕事を休め。」
キャプテンの言葉に、控えめに首を振る。
船に一人でもクルーが残っているならその人の為に温かい食事を用意したかった。
私がどうしても今日は船を降りる気がないと感じ取ったらしいキャプテンは、ふう、とため息をついてこちらに何かを投げてよこした。
「え?これ。」
それはホルダーに入れられた銃だった。
小さめのものとはいえ、ずっしりと重い。
銃を見たことが無いわけではなかったが、手にするのは初めてだ。
「護身用だ。それで戦えという意味じゃない。クルーは何人か残ってはいるが念のためな。身に着けておけ。」
「……はい。」
「じゃあな。」
踵を返して出て行こうとしたキャプテンに慌てて声を掛けた。
「あの!いってらっしゃい。キャプテン!」
足を止め、少し驚いた顔でこちらを振り返ったキャプテンは、フッと口角を上げて「行ってくる。」と言って出て行った。
キャプテンが出て行ったあと、まだ開けていない買い物袋を部屋の隅に寄せ、キッチンへ向かう。
いつもより小さい鍋でカレーを煮込んでいると、船に残っていたクルーが次々と入ってきた。
「カレーの匂いがする!」
「もうすぐできますよー。ちょっと座って待っててくださいね。」
「ハルちゃんが居ると、なんかいいなあ。」
「な!なんていうか、キッチンに来れば安心できるっていうか。」
「そうそう、メシだけじゃないんだよな。船番も悪くないって思えるよ。」
「……ありがとうございます。」
きっと、キャプテンの言ったように、食事の用意などせずに出掛けても誰も責めたりしなかっただろう。
以前コックが居たときもそうだったのだろうし、それがこの船にとっては普通なのかもしれない。
でも、両親を早くに亡くし、何年も前にたった一人の弟とも別れ一人で暮らしていた私は、「ハラ減ったー」と言ってキッチンに入ってくる彼らを、「ハルちゃんハルちゃん」と言って自分を可愛がってくれる彼らを、どこか、幼い記憶の中でしか暮らしたことのない家族に重ね合わせていた。
今の彼らの会話が何気ないものだったとしても、それは宝物にしたいくらい私にとって嬉しい言葉だった。
船に残っているクルーと食事を摂り、部屋の荷物の片付けをして、ラウンジに置いてある雑誌を読みながらお茶を飲んでいると、すっかり夜は更け日付が変わろうとしていた。
「みんな、遅いな……。」
キャプテンを始めとする、酒場へ行ったグループはまだ船に戻っていなかった。
外の見張り台に居るクルーに温かいものを持っていこうと、魔法瓶のポットに熱いコーヒーを入れ毛布を持って甲板にでた。
見張り台の下から声を掛けると下に降りてきてくれて、毛布とポットを受け取ってくれた。
そして見張りの彼が、「みてごらん」と島の方を指差した。
「キャプテン達、帰ってきたよ」
「え?!」
「まってたんだろ?良かったな」と言って見張りの彼はまた梯子を上っていった。
甲板の手すりに近寄って目を凝らすと、確かに何人かの人影がこちらに歩いてくるのが見えた。
先頭を歩いているクルーの数人は何か大きな物を運んでいる。
一番先に甲板に上がってきたペンギンが私の存在に気づいた。
「なんだ、ハル。まだ起きていたのか?」
と、私に言ってから、船の下に向かって「いいぞ、上げろ」と声を掛けた。
緩衝材で何重にも巻かれた大きなものが船の上に積み上げられ、それはまた同じように何人ものクルーに抱えられて船の中に入っていった。
「ペンギンさん。あれ、なんですか?」
「お楽しみだ。」
にやりと笑ったペンギンは、大きなものを運んでいったクルーの後を追いかけていく。
全てのクルーが船に上がったあと、最後に甲板にキャプテンが降り立った。
彼は、近寄った私をまっすぐ見つめ、「今、戻った」と言った。
「おかえりなさい。キャプテン。」
……これが言いたくて起きていた。
やっと、家族が皆揃った気がして安心する。
出迎えた私の頭を満足そうに撫でたキャプテンは「風邪引く。中に入るぞ」と言って船内へ促した。
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