No.16-side:LAW
いくつか前の島で、ベポが傷ついた女を拾った。
ハルというこの女は不思議なやつだ。
一見ただの女なのに、海賊と見れば畏怖するそこら辺の女とは違う。媚を売る娼婦とも違う。
あいつの意見を無視して無理矢理船に乗せたようなものなのに、嫌な顔ひとつせず毎日クルクルとよく働き、コロコロとよく笑う。
クルーになる時に言った約束を守るために生活に必要なものを買い揃えてやれば、まるでこちらが悪い事をしてるかと錯覚するくらい恐縮しやがる。
男所帯では行き届かなかったこともよく気がつき、こいつが入ってから他のクルーも心なしか動きがよくなったように思う。
仕事をしていなければ、編み物をしたりパッチワークをしたりしている。こいつが来てから3時のおやつなんつー習慣ができた。
とにかく目が合えばフワフワと笑うこいつの周りは、海賊船とは思えない暢気な空気が漂っている。
冷静に考えれば、海賊船にどうなんだ?と思うようなやつだが、同時に居るのも悪くないと思わせるやつなのだ。
こいつの行動で気づいたことがひとつある。
ハルがクルーになってから、何度か島に寄った。
俺は島にいる間は必ずペンギンやクルー何人かと酒場に呑みに行く。
当然帰りは同じ日付で帰ることはない。
しかし、船に乗ると必ずラウンジにハルが座ってて、一人で本を読んだり裁縫をしたりしている。
その都度「夢中になってて」とか「起きているクルーに夜食を作ろうと思って」などというのだが、こいつがこんなに遅くまで起きているのは島にいる間だけだ。
そして、必ず俺に「おかえりなさい。」と言ってから寝る。
そんな事が続いて、こいつが起きているのは俺らの帰りを待っているからだと気づかないほど俺は馬鹿じゃない。
毎回、暇を潰しながら何時戻るかも分からない俺らを待つくらいなら、一緒に行けばいいと酒場に誘えば必ず断る。
「残ってるクルーの夕食を作りたい」「明日の準備もあるから」「お酒の席に慣れてないので」
全部嘘ではないだろうが、全部一番の本当の理由ではないだろう。
なんであろうと、俺らを出迎えるハルは本当に嬉しそうに笑うから、まるで犬コロのようだ。と思いながら俺はハルの出迎えを気に入っていた。
今日、酒場で俺の横に座った女がなかなか悪くない女だったから、クルーを先に帰らせ宿で抱いた。
こんなことはよくあることだ。
溜まれば金を出してでも抱くこともある。
空が白み始めた頃に、宿に寝ている女を置いて船に戻った。
他のクルーも先に帰したし、流石にこの時間までハルが起きているとは思っていなかった。
しかし、船に着けばキッチンから物音がして、覗いたらハルがスープを作っている。
驚き、ドアを開けた形のまま立ち尽くせば、俺に気づいたハルは真っ赤な目を細め嬉しそうに笑って言った。
「おかえりなさい。キャプテン。」
その顔を見た瞬間、ズキリと心臓がひどく痛んだ気がした。
あれほど気に入っていたハルの出迎えを初めて疎ましいと思った。
自分が後腐れの無い女を気まぐれで抱いた行為に罪悪感を感じたのも初めてだ。
なんで起きているんだ。
なんで待っているんだ。
初めて自分の心に湧き上がる黒い渦の正体も、こいつの考えている事も全く分からず苛立ちが募り、怒りに変換した。
いつもは出迎えられれば可愛くて頭のひとつも撫でてやるが、当然そんな気は微塵も起きず。
ハルの暢気な笑顔を睨み付け、キッチンの扉が壊れるかと思うくらい勢い良く閉めて自室に戻った。
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