No.25-side:CREW




ペンギンが、今日はバーベキューだから用意しろと言ってきた。

バーベキューなんて久々だ。
もしかして、ハルが来てから初めてじゃないか?
ああ、絶対初めてだ。
あいつが来てからはあいつのメシばかり食ってる。
せっかくならハルと一緒に準備をしようとキッチンへ向かう。
扉を開けると、そこには数人のクルーが既に野菜や肉を切り始めていたが、ハルの姿はなかった。


「あれ?ハルは?」

「え?キャスケット。ペンギンに聞かなかったのか?ハルは今日はキャプテンと外出だ。夕食の準備が出来ないからバーベキューなんだよ。」

「キャプテンと?なんでまた、珍しいな。」


野菜を切っていたクルーが答えた返答に少し驚いた。
今までキャプテンは、自分と一緒だと絡まれやすいからと外出にはハルを連れて行かなかったはずだ。
一体どういう心境の変化なんだか……。


「おい、キャス。お前、手空いてるなら甲板で炭起こすの手伝ってこいよ。」

「へいへい。なんか皆はりきってんなー。」

「そりゃそうだろ。ハルが参加する初めてのバーベキューだ。美味いもん食わせたいだろ。」

「……そっか!そうだな!」


そうだ。ハルが帰ってくるまでに、完璧に準備して驚かせてやろう。
飯作りに関しては、あいつにいいトコ見せれたことないから、きっとびっくりして大喜びするに違いない。
そう思ったら、俄然やる気が出て、走って甲板に向かった。

−−

西の空が橙色に色づき始める頃には、宴の支度はほとんど終わり、クルーの大半が甲板に出て思い思いに暇な時間を潰していた。
俺は甲板の縁に腰掛け、2人が降りてくるであろう街へと続く斜面を見つめていた。
程なくして、斜面の上の木の陰から白い帽子が見えた。


「きた……!」


キャプテンが少し下に降り、上に向かって手を伸ばす。
すると、黄色いふわふわのワンピースを着たハルが同じ木の陰から現れ、細い腕を伸ばし、キャプテンの手を掴みながらへっぴり腰でゆっくり斜面を降りはじめた。
手を繋ぎながらゆっくり降り、たまにキャプテンがハルの方を向いたまま後ろ向きに降りたりしている。


「あっ……ぶね!」


ハルの足元が僅かに崩れ、滑るように少し下降したハルはキャプテンに抱きつくように受け止められた。
キャプテンは、持っていた荷物をハルに持たせ、自分はハルを横抱きにすると、軽い足取りで下に降りてきた。

坂の下まで降りたのに、ハルを抱いたままのキャプテンがこちらに向かって歩いてくる。
キャプテンの首に手を回したままのハルが、キャプテンに何かを言い、それにキャプテンが返し、ハルが困ったように笑顔で俯くのが見えた。
俺は、2人の姿が見えてからずっとざわつき続けている胸がいよいよ苦しくなって、たまらず目を背けた。

あんなに女に気遣うキャプテンを俺は知らない。

船の中や買出しの時とは違う、可愛い格好のハルを俺は知らない。

優しそうに愛しそうに笑うキャプテンを俺は知らない。

あんなに、頬を紅潮させて照れたようにはにかむハルを、俺は、知らない……。


甲板の方を向き俯いていると、目の前をベポがドタドタ通過していった。


「キャプテーン!ハルー!おかえり!」

賑やかに船を降りて2人に駆け寄っていく。

もうハルはキャプテンの腕から降りていて、でも手は繋がれたままで、ハルはベポと言葉を交わしたあとキャプテンの手をほどきベポと繋ぎなおした。
ボトムのポケットに両手を突っ込んで歩くキャプテンの後ろを、ベポとハルが繋いだ手を振りながら付いて歩く。
キャプテンが甲板に上ってくるのに気づいて慌てて立ち上がり、場所を避けた。


「お、おかえりなさい。キャプテン。」

「おう。」


キャプテンに声を掛けると、こちらをチラッとみて短く返した。
キャプテンは、ベポに手を引かれて甲板に降り立ったハルの方を向き声をかけた。


「ハル。お前、着替えて来い。その格好じゃ夜の甲板は冷える。」

「はい。」

「医学書、俺の部屋に置いとけよ。」

「わかりました。」


キャプテンに返事したハルと目が合う。


「よ、よお。おかえり。」

「ただいま、キャスケット。」


にっこり笑ってくれたハルに心臓が跳ねるのを感じた。
今の今まで胸が苦しくて切なくて、かなり気分が落ち込んでいたのに、ハルに笑顔を向けられただけでこんなにもテンションが上がる。
ベポと手元のビニル袋を覗いてハーブがどうとか話しながら去っていくハルの後姿を見送った。


「キャス」


不意に低い声で話しかけられ振り向くと、にやりと笑ったキャプテンがこちらを見ていた。


「あまり、熱い視線を向けてくれるなよ。ドキドキしてハル持ったまま斜面転げ落ちるところだったぜ?」


その言葉にハルにつられて笑顔になっていた顔が一気に引き攣った。
クククと笑いながらキャプテンはクルーが集まっている方に歩いていく。

上がったはずのテンションは、また一気に急降下した。


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