No.26
ヨガパンツの上にフレンチスリーブのTシャツを着て、カーディガンを引っ掛けた。
甲板に出ると、其処はうっすらと煙が漂い、香ばしい良い匂いに包まれていて一気に食欲が刺激された。
見渡すと私の名前を呼びながらブンブンと手を振り回しているベポが見え、そちらに近寄る。
そこにはキャプテンとペンギンとキャスケットという、いつものメンバーが既にバーベキューを囲みジョッキで酒を煽っていた。
「うわぁー。美味しそうですねぇー。」
「おい、キャス、ハルの分持って来い。」
「はい、キャプテン。お前嫌いなもんとかある?」
「全然ない!ていうか、私行くよ!」
「いいって、座ってろ。」
「ありがとう」とキャスケットに笑って言うと、急にキャスケットが驚いたように目を見開き私の首元に注目した。
すぐにネックレスに気づいたのだと分かり、チャームを摘み持ち上げて見せる。
「キャプテンに貰ったの。どう?似合うかな。」
「……あ、ああ。良かったな……。」
てっきりいつもの調子で笑いながら何か言ってくれると思ったのに、眉を下げて俯いた彼は足早に調理スペースへ歩いていってしまった。
キャスケットがなんだか怒っているような気がして、やはりキャスケットを使わず自分で行けば良かったかと思う。
「あの……やっぱり私行ってこようかな。」
「いい。お前は座ってろ。」
「でも私、準備も手伝えてないのに……。」
「気にすんな。お前が心配するようなことじゃねぇよ。」
隣に座っているキャプテンが、私に細いグラスに入ったお酒を差し出しながら言う。
どうやらキャプテンは、キャスケットの様子が少し違う理由が分かっているようだ。
「なにかあったんですか?キャスケット。」
「何もねぇよ。あー、あったのか?いや、でも実際何もねぇしな。」
「なんですか?それ。」
「まぁ、あいつにも色々あるってことだ。」
全然要領を得ないキャプテンの答えに、これ以上何か聞く気にもなれず、これ以上は気にしないことにした。
しばらくすると大きな紙皿に、肉や野菜、魚介類をこれでもかと積み上げたキャスケットが戻ってきて渡してくれた。
「わぁ、いっぱい持ってきてくれたんだね。ありがとう、キャスケット。」
「いや……。」
3・4人前はありそうかと思われる量の皿を受け取ってキャスケットにお礼を言えば、短く返した彼は、私の向かい側のペンギンの隣に座ってしまった。
素っ気無いキャスケットを少し寂しく思いながら、目の前の魚介を口に運ぶ。
私がこの船で目覚めた日にベポが言っていた「ただ焼いただけ」という料理じゃないかと心配していたが、それらはとても美味しく、誰が作ったのかバーベキューソースも絶品だった。
「おっ、おいしい!」
「そりゃ、よかった。うちのクルーが唯一作れる料理だ。まぁ、料理と言えるかわからんけどな。」
私が感嘆の声を上げると、目の前のペンギンが笑って返した。
私の反応に、周りのクルーも嬉しそうな声を上げ、「うちの故郷じゃバーベキューは男の仕事だからな」と得意そうにする人もいた。
分厚いお肉を一口サイズに切って味わっていると、横でムシャムシャととうもろこしに齧り付いていたベポが不思議そうな声を出した。
「そういえばハルは、お酒飲まないの?」
「あ……。」
キャプテンから受け取ったものの一回も口をつけてないグラスを見る。
「飲めないのか?なら、ジュースもあるが。」
「あ、じゃあ、ジュースにします。飲めないっていうか、飲んだことがないので飲めるかどうかもわからないっていうか……。」
「クク。おもしれえ。飲んでみろよ。」
ペンギンの勧めに素直にジュースをとりに行こうと腰を上げると、キャプテンが私の腕を掴んで座り直させた。
「え……でも。」
「少しくらいいいじゃねぇか。ただの酒だ。毒じゃねぇよ。駄目だったらジュースでも水でも持ってくれば良い。」
「……はい。」
恐る恐るグラスに口を付けると、口一杯に甘酸っぱさが広がった。ほんのり香るアルコールも気にならず飲み易い。
「おいしい……これ。」
「フランボワーズとカシスの酒だ。ベリー好きだろ?」
「はい。」
キャプテンがピンクのラベルが貼られた瓶を掲げながら言う。
この船の人は北の海出身の人がほとんどだ。北の海でよく飲まれるビールやラム、ブランデー、ウォッカなどを好む人が多い。
甘いリキュールなんて珍しいと思いながら、初めてのお酒の味を堪能した。
私って結構イケる口かもしれない。
飲んでいると段々ポカポカしてきて楽しい気分になってきた。
はぁっと深く呼吸をしてみると、喉の奥から熱い息が吐き出され、なんだか面白くてケラケラ笑う。
ごはんも美味しいし、最高だなぁ〜。
細いグラスのお酒はあっという間になくなり、機嫌良さそうに私の様子を眺めていたキャプテンに元気良くお酒のお代わりを申し出た。
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