No.27-side:CREW




古い友人2人に挟まれて酒を飲みながら、俺はため息をかみ殺した。

原因は俺の目の前に居る女。
横のベポと
「たのしー 」「「ねー」」「おいしー」「「ねー」」
と首を傾げながら顔を見合わせケラケラと笑っている。

隣にはそんな彼女の様子を愉快そうに見守り、空になったグラスに嬉々として新しい酒を作ってやっている男。
今や一隻の頭となった、古くからの俺の友人でもある、トラファルガー・ロー。

反対側の隣には、そんな彼女を盗み見るようにしながら、目の前の肉を自棄食いのようにガツガツと頬張る男。
俺と船長の幼馴染であり弟分で、クルーの中で最も信頼を寄せる男、キャスケットだ。

いつもは、もっとはしゃぎ回り五月蝿いキャスケットが、ほとんど言葉を発しない。
逆に周りが賑やかなのは好きなくせに、絶対に自分からは騒いだり仕掛けたり、ましてや絶対にクルーの酒など自ら作らない船長が、わざわざ一人の女の為にフルーツの酒を調達して自らカクテルを作っている。

まるで二人が入れ替わったかのようだ。
らしくない。
全くもってらしくない。
しかし2人とも古い付き合いだ。様子を見ていて、大体の理由はわかった。

原因である目の前の女。
ウチの船で一番の新米クルー、ハル。
生真面目なやつで責任感は強く、仕事は適確。
食事の用意と船の雑用を主に任せているが、良く働くし良く気が付き、いい仕事をする。
こいつが来てから、雑用にまで目を向けいちいち指示をしていた俺の仕事は格段に楽になった。
しかも、島に降りる度に食費や雑費の支出の内訳を提出してくる為、予算が組みやすく経費の無駄が大幅に削減された。
海賊らしくない人間だが、戦えないことを差し引いても、十分船にとって価値のあるクルーだ。

話しは戻る。
その友人2人が、らしくなくなっている大体の理由……。
つまりは2人ともハルの事を気に入ったってことで概ね間違いないだろう。

今日ハルと2人で出掛けた船長は、戻ってきてから随分と機嫌がいい。
反対に、ハルと船長の帰りを出迎えたキャスケットは昼間の張り切りはどこへやら、まるで魂が抜けたようになっている。
先ほど、船長が誂えたネックレスをハルが嬉しそうに見せたのが決定打になったようだ。
俺は、今度は隠さずため息を大きく吐き、席を立ってハルの元へ行った。


「おい、ハル。それくらいにしておけ。ぶっ倒れるぞ。」


ジュースみたいなカクテル2杯目でこのザマだ。
小さな手から赤い液体の入ったグラスを取り上げれば、船長が俺の手からそのグラスを奪い取った。


「なんだ、ペンギン。いいじゃねえか。笑い上戸になってるだけだ、可愛いもんだ。なあ?」


そう言いながら、ハルの手にグラスを戻し、彼女の頭を撫でる船長。
どうしたってんだ。この男は……。この人も酔ってんのか?


「何言ってんですか。こいつは初めて酒を飲んだんですよ。ここらで止めさせないと潰れちまう。」

「ククク。潰れたら俺が責任もって部屋に運んでやるよ。」

「だ、だめだっ!!」

咎めた俺の言葉に船長が返すと、キャスケットが大声を出した。
ニヤニヤと笑い続けていた船長の表情がフッと変わる。
一瞬真顔になったかと思ったら、鋭い目のまま片頬を上げ、ゆっくりとキャスケットの方を向いた。

「へえ……。何が駄目なんだ?キャス。」

「え……いや。その。ベポも俺もいるんだし、そんな事でキャプテンが手を煩わせる必要はないんじゃないかと……。」

「かまわねぇよ。どうせ隣の部屋だしな。こいつは軽いし、大した手間じゃない。」

「そう、ですか……。」


自分でも大声を出したことが信じられないといった様子で俄に慌てた様子のキャスケットが、やけに穏やかな声色の船長の言葉に、目線をあちこちに泳がせながら返した。

−ガチャン!

ハルがテーブルの上に落とすようにグラスを置いたので、驚いて彼女を見ると、目を閉じたまま頭をフワフワ揺らしている。


「ほら、ハル。言わんこっちゃないじゃないか。眠いんだろ?部屋に行こう。」

「いやですーペンギンさん。私、まだベポとお話の途中なんですー。」

「ったく。大した話してなかっただろうが。」

「……。」

「ねるな。コラ。」


俺がぐだぐだになったハルをなんとか立たせようと奮闘していると、船長がキャスケットを見据えたまま片手で頬杖を付いて口を開いた。


「なぁ、ベポ。」

「アイアイ?キャプテン。」

「悪いが俺は、コイツの親がわりになるつもりはねぇんだ。」

「へ?なんの話し?」

「お前が、コイツに甘えさせろって俺に言った話しだ。」

「ああ。……でもねキャプテン、ハルはもうちょっと誰かに愚痴を言ったり甘えたりした方がいいと思うんだ……。」

「誰も甘えさせねぇとは言ってないだろ。」

「どういうこと?」

「俺はペンギンみたいに、親や兄のように世話を焼いて甘やかす気はないって言ってるんだ。」

「は?!俺?!」


急に自分の名前が出て驚く。ニヤリと笑って一瞬俺に目をやった船長はまたキャスケットに視線を戻し続けた。


「俺は……そうだな。まずは、船長として……上司として……だな。」

「まず?」

「ああ……最終的に、男として甘やかせたら良いな。」


笑みを深くして言った最後の言葉に、驚き固まった。

恋愛云々には滅法鈍いベポも流石に驚いた様子だ。
キャスケットに至っては、これでもかと目を見開き、ポカンと口を開けている。
言った本人は、満足そうに手元に視線を戻し、琥珀色の酒を煽った。

倒れないようにと、首の後ろを支える俺の腕に凭れて眠っていたハルが、ぐらんと落ちそうになり慌てて支え直す。

なんなんだ、この状況は……。
ハァーと大きく息を吐き、肩にハルを担ぎ上げ、とにかく部屋に運ぼうと船内へ向かった。

遅れて我に返ったベポが「そっかぁー。キャプテンはハルが好きなんだねぇー」と嬉しそうな声を出している。
キャスケットはロボットのような固い動きで酒の瓶に手を伸ばし、グラスに注がずに直接瓶に口を付けて飲み始めた。


全く……勘弁してくれ。


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