No.28
「ハルちゃん、ご馳走様!ごめんね遅くなって。」
「はいはーい。お粗末さまでしたー。」
最後に食事を終えたクルーから食器を受け取り、水を張ったシンクに沈めた。
チラッと調理台へ目線をやり、小さくため息をつく。
目線の先には、一人分の食事を乗せたトレー。
そう、まだ一人朝食を摂っていないクルーがいるのだ。
「キャスケット……どうしたのかな……。」
数日前、前の島での出発の前夜、私が来て初めてこの潜水艦の甲板でバーベキューをした。
その翌日から……いや、そのバーベキューの時からキャスケットの様子がおかしいのだ。
以前は、朝は割と早く起きてお皿を出したりカトラリーを拭く手伝いをしてくれた。
ラウンジに行けば自然と隣に来て、面白い話を聞かせてくれたりカードゲームを教えてくれた。
今は、それが一切なくなった。
いつも明るくニコニコと笑う彼が、最近は私が話しかけると眉を下げ、悲しそうな苦しそうな顔をして短く返事をして去っていく。
具合が悪いのかと様子を見れば、私以外のクルーとは大笑いをして騒いでいるのを見かけたからどうやら私にだけらしい。
嫌われちゃったのかもしれない。
彼は私と同い年ということもあり、割と気があった。
ベポの次に仲良くしてくれた人だから今の状況は正直悲しい。
……でも、食事だけはちゃんと欠かさず来てくれていたのに。
食器を洗う手を止めて、キャスケットと同室のクルーを探しにラウンジへ向かった。
ラウンジへ入ると、武器の手入れをしている輪の中に目的の人物を見つけた。
「ロイさん!」
「ん?ハルちゃん、どうした?」
「……あの、キャスケットが、まだ朝食を摂っていないんですが、何か知りませんか?」
「え?まだ起きてないのあいつ。いつもは俺より先に起きてるくせに、確かに今朝はぐっすり寝てたんだよな。」
「……そうですか。」
「ただの寝坊だろ?そんなやつ、朝飯抜きでいいよ!」
ワハハと笑いながら、軽く返したロイさんは、また輪になっているクルーとの会話にもどり、武器の手入れの続きを始めた。
……寝坊。
なんとなく心の中のもやもやした引っ掛かりが取れないまま、ロイにお礼を告げ、キッチンへ戻った。
食器の後片付けが終わると普段は掃除や洗濯をするのに、キッチンから出られずにいた。
いつキャスケットが起きてきても良いように……。
昼食や夕食の下ごしらえをしたり、食材の残量をノートにつけたりして時間を過ごす。
あれこれしているうちに10時になった。
もやもやが強くなり、座っていた椅子から勢い良く立ち上がる。
嫌がられてもいい、様子を見に行こう。
着けていたエプロンを椅子の背もたれに引っ掛け、キャスケットとロイの部屋に向かった。
−コンコン。
キャスケットの部屋を控えめにノックしてみる。
数秒、耳を澄まして待ってみるが返事は無く、そっとドアを開けた。
部屋を見渡すと、ハンモックのひとつが微かに揺れていて、端から明るい色の髪がこぼれていた。
……なんだ。やっぱりまだ寝てる。夜更かしでもしたのかな。
ほっと息を吐いて、ドアを閉めようとすると、床に散らばった服が見えた。
「まったく、キャスケットったら、また脱ぎ散らかして……。」
苦笑しながら、点々と床に落ちる丸まった靴下や袖がひっくり返ったTシャツなどを拾っていく。
「……ハァ……。」
ハンモックから苦しそうな呼吸が聞こえた気がして動きを止めた。
「……キャスケット?」
「……。」
声を掛けてみるが返事は無い。
恐る恐る顔を覗いてみると、眉をしかめながら寝返りを打つのが見えた。
悪夢でも見てるのかな。
しわの拠った眉間を撫でて、思わず勢い良く手を引いた。
……熱い?
引っ込めた手をソロリと伸ばして、改めて額に手を当てる。
やっぱり……すごく熱い。
どうしよう。
えっと、えっと……クスリ……じゃなくて、
その前に……お医者さん……。
「……キャプテン!!」
持っていた洗濯物をその場に落とし、キャスケットの部屋を飛び出した。
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