No.29
一目散に向かった船長室にノックもしないまま飛び込んだ。
「キャプテン!!」
まだ寝ているキャプテンのベッドに飛びつくように駆け寄る。
「キャプテン!起きてください!!」
ベッドの横に跪いて、目の前のキャプテンの腕を揺する。
ごそりとキャプテンが動き、不機嫌そうな顔で片目を開けこちらを見上げた。
「うるせえな。もう少し静かに起こせ。」
「キャプテン!!」
良かった!起きてくれた!とキャプテンの腕を掴む手に力を込めれば、逆側のキャプテンの手が背中に伸びて私を引き寄せた。
引き寄せられて、首元にキャプテンの鼻先が押し付けられ慌てる。
「キャプテン!お願い、起きてください!!キャスケットがすごい熱なの!!」
「……ああ?キャスが?」
少し顔を離したキャプテンが不機嫌な顔のまま私を見る。
ぶんぶんと勢い良く首を縦に振って続けた。
「苦しそうで、声を掛けても気づかないくらいなんです。」
「……チッ。」
舌打ちしたキャプテンは完全に私から手を離し、ベッドから降りた。
「支度する。お前はソレでペンギンに連絡を取れ。」
キャプテンがチェストからタオルを出しながら、子電伝虫を顎で示して言った。
「ペンギンさんに?キャスケットが具合悪いって言えばいいんですか?」
「ああ、ただの風邪なら問題ないが、万が一の時はすぐに海面に浮上できるように準備をしろと伝えろ。」
「わ、わかりました。」
「……それと、俺が診終わるまで、キャスの部屋に誰もいれるな。お前も入るなよ。」
「……はい。」
シャワー室に入ったキャプテンを見送って、子電伝虫を手に取った。
(はい、こちらペンギン。)
「ペンギンさんですか?ハルです。」
(ハル?どうした?)
「キャスケットが高熱を出しました。これからキャプテンが診察をします。」
(キャスケットが?!)
「診察して、万が一の時は、すぐに海面に出られるように準備を。との事です。」
(わかった。すぐに海上の偵察に入ろう。ハル。)
「はい。」
(その子電伝虫、お前が持ってろ。診察が終わったらすぐに知らせてくれ。)
「わかりました。」
(頼んだぞ。)
ペンギンとの通話を終えた所で、背後の扉が開き、むわっと湿気の多い空気が室内に流れ込んだ。
「終わったか。電話。」
「……はい。」
ボトムだけ身につけたキャプテンが、首に掛けたバスタオルでワシャワシャと頭を拭きながらシャワー室から出てくる。
そして、適当に拭かれた髪をそのままに、Tシャツを被り、白いキャビネットから聴診器と取っ手の付いた黒い箱を取り出した。
「行くぞ」
長い足で歩いていくキャプテンを小走りで追いかけた。
−−
そわそわとキャスケットの部屋の前を行ったり来たりしている。
万が一と言うのはきっと、船内でどうにもならないくらいの容体だった場合。
そして、病気の原因がウイルス性のものだった場合。
ウイルス性だったらこの潜水艦内を少しでも密室状態にするべきではない。
もし悪いウイルスだったら、きっと次はロイさんが……そして次は……いや、次は誰に感染してもおかしくない……。
最悪の事態が何度も脳裏をよぎりその都度、ぶんぶんと頭を振る。
静かに扉のノブが回り、部屋から出てきたキャプテンに慌てて駆け寄った。
「キャプテン……ど、どうでした?」
「問題ない。よくある風邪だ。喉の腫れはあるが、集団感染を恐れるほどのウイルスじゃない。」
「……そ……ですか……。……はぁ、よかったぁ……。」
「他の奴らの免疫が下がらないように、気をつけたメシを作ってやってくれ。」
「わかりました。」
私の頭にポンと手を置いて言ったキャプテンに、ニッコリ笑って返した。
ほっとして手を胸に当てようとして、手にもったままの子電伝虫に気づいた。
「あ、そうだった。」
慌てて、通信を繋げる。
(はい、こちらペンギン。)
「ハルです。」
(ハルか。どうだった?)
「とりあえず、海面には出なくて大丈夫なようです。」
(そうか、良かった。)
「ペンギンか?」
「はい。」
子電伝虫を指したキャプテンにうなずく。
「ちょうど良い、代われ。」
キャプテンに、子電伝虫の顔を向けた。
「ペンギン。」
(船長。お疲れ様です。)
「キャスを医務室に運ぶ。人を寄越せ。」
(了解しました。)
そのまま、私の手から子電伝虫をとりあげたキャプテンはキャスケットの部屋を親指で指した。
「ハル、キャスが医務室に行ったら、この部屋のリネン類を全部洗濯してくれ。ロイのもだ。」
「はい、わかりました。」
「……ったく、部屋を散らかしすぎなんだよ。病気にならない方がおかしい。」
ぶつぶつ言いながらキャプテンが戻っていく。
あわてて、その背中に声を掛けた。
「キャプテン!!」
「あ?」
キャプテンが足を止め、振り向いた。
「あの……髪、ちゃんと乾かしてくださいね?キャプテンが風邪引いちゃいます。」
「……うるせーよ。」
私の言葉が意外だったのか、キャプテンは少し目を見開いたあと、ニヤリと片頬を上げて返事を返した。
キャプテンと入れ違いで、キャスケットを運ぶために、ペンギンさんとベポとロイさんが走ってきた。
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