No.30-side:CREW




体の節々が痛い。
頭もひどくぼんやりとする。
全身を襲う不快感で目を覚まし、薄く目を開けた。

なんだここは……白い部屋?……に、ハルが居る。

なんだろう、夢だろうか?
いや、このカーテンは……医務室?
具合悪いのか、俺?

目の前のハルをぼんやり見つめていると、ハルが気づきニッコリと笑った。


「キャスケット、目、覚めたね。お水、飲める?」

「……。」


無言で頷くと、ハルも笑顔で頷き、ピッチャーからグラスに水を移した。
少し体を起こすと、口元までグラスを持ってきてくれる。
そのグラスを受け取って、口元で傾けると、俺がグラスを落とさないように俺の手の上からそっと手を添えてくれた。
熱を持った喉に冷たい水が流れるのが気持ち良い。
しかし、喉が詰まっているような感じがして、ごくごくと一度に飲むのが難しい。
少しむせそうになって慌ててグラスを離すと、口元にタオルが当てられた。
ぼすっと枕に頭を落とすと、はだけた掛け布団を肩の上まで引っ張り上げてくれた。


「もう少ししたら、何か食べようね。お薬飲まなきゃだから。」


こくりと、首だけ動かす。
それだけでも、ハルはにっこりと笑ってくれた。
ハルが、ふと眉を下げ、済まなそうな顔をする。


「キャスケット、ごめん。勝手にお部屋お掃除しちゃったよ。お洗濯も。」


げ、マジかよ。ぼんやりした頭で、見られてやばい物は出てなかったかと思い返した。


「前に……こんなことあったね。立場、逆だったけど。」


ハルの言葉に、そうだっけ?と考える。


「私がこの船に拾われて、目を醒ましたばっかりの時。寝てる私にキャスケットがスープを持ってきてくれたんだよね。」


ああ、それか。そんなこともあったな。
あれからまだ3ヶ月も経たないくらいなのに、なんだかもう懐かしい。


「ハル……。」

「わっ!ひどい声!!」


ガラガラとした自分の声に驚く。
ハルも驚いたような声を出し、ケラケラと笑った。
ハルの楽しそうな顔に、つられて俺も微笑んだ。

俺がゆるゆると笑った顔をみて、ハルが少し驚いた顔をして眉を下げて微笑む。


「よかった……キャスケットが笑った。最近、笑ってくれなかったでしょ?……たぶん、少し避けられてたし。ちょっとね、寂しかったの。ううん、本当はすごく。ベポの次に仲良くなったのがキャスケットだから。」

「ハル……」


今度は、声を出さずに、空気だけでささやいた。


「ん?」


好きだ。


「なあに?キャスケット。」


好きだ。

好きだ。

お前が……

好きだと……言いたい。







「なんでもない……」

「……そう?」


俺に笑いかけてたハルが、フッと目を逸らした。
サイドテーブルの洗面器に手を突っ込んでいるハルを目で追って、自分の視界が若干ぼやけているのに気づいた。
ハルが、冷たい濡れタオルを、額と目の上に掛けてくれる。


「熱が……出てるんだね。」


冷たいタオルが、熱くなった俺の目からどんどん溢れる水滴を吸い取ってくれていた。


「ご飯の時、また来るね。……ゆっくり休んで。」


布団越しに、ぽんぽんと胸がたたかれたかと思うと、カーテンが開く音がして、ハルの気配がなくなった。


「……ぐぅぅっ……くそう……くそ……くっ……。」


ハルが居なくなり、真っ白な医務室に一人になると、ますます涙と声が溢れ出てきた。


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