No.31-side:CREW




そろそろ目を覚ます頃じゃないかと、医務室に向かう。
医務室のある廊下にたどり着くと、ハルが医務室から出てきたのが見えた。


「ハル。」

「あ。ペンギンさん。」

「キャスケット、どうだ?」

「はい、さっき目を覚ましたので、お水は飲ませました。でもやっぱり熱が高いみたいで……。」

「そうか。」

「……え。今医務室に行かれるのですか?」


ハルの答えに、起きているのなら……と医務室に足を向けると、慌てたように声を掛けられた。


「そのつもりだが?」

「ん……と、後にした方がいいんじゃ、ないかな……?」

「なぜだ?」

「……たぶん、熱のせいだと思うんですが……情緒不安定みたいで……。」


少し言いにくそうに言葉を紡ぐハルに、ふうん?と首を傾げる。
情緒不安定ね……。

……それは、熱のせいなのか?


「まぁ、様子を見るだけだ。長居をする気はない。」


そう言って、ハルの肩をポンと叩き、医務室の扉を開けた。


「……っふ……ぐす……っ……。」


カーテンの向こうから聞こえる音にやはり……と思う。
シャッとカーテンを引くと、ベッドに横たわるキャスケットの体が大きく跳ねた。


「高熱があるときは、涙を流すより汗をかいたほうがいいんじゃないか?」

「……ペ……ギン……。」

「恋煩いで発熱か?らしくないな。キャスケット。」


言いながら、ベッド横の丸椅子に腰掛ける。


「らしくない……ほんとだよな。」


喉が腫れて声が出ないのだろう。囁き声でキャスケットが返した。


「いっそ、想いを告げて玉砕してみたらいいんじゃないか?」

「……玉砕前提かよ……。」


額から目の上に掛けて覆っていたタオルを取りながらキャスケットがこちらに情けない視線を向けた。
いつも細いサングラスで隠されている目元が赤く染まっている。


「フ。酷い顔だな。」

「……うるせえよ。」


キャスケットはベッドに横になったまま、タオルを握った手を見つめ、ぽつりと言った。


「いいんだ。想いを告げる気はない……。」

「なぜだ。」

「……だって、あいつらデキてんだろ?」

「そうなのか?」


それは初耳だ。確かに船長がハルを好きなことは聞いたが、ハルも船長を想い、さらには恋人同士であるなど聞いたこともない。
俺が意外そうな顔をすると、キャスケットは驚いた表情をし、体を少し起こした。


「ちがうのか?だって、手繋いでデートしたんだろ?オーダーメイドのネックレスをプレゼントされっ……っ……げぇほっケホケホッ……されたんだろっ?」

「おちつけ。確かに2人一緒に出掛けたし、船長がハル用にシンボルのネックレスを誂えたが、それだけでデキてるのか?」

「……だって、あのキャプテンだぞ?」

「船長が言ってたのを忘れたか?最終的に男として……だ。」

「……!!」


俺の言葉に何か気づいたように、キャスケットが目を見開く。


「船長も、言葉では伝えてないだろうよ……ハルに。」

「……。」


複雑そうな顔のキャスケットを見ながら、何年経っても変わらない彼の純情が嬉しく、そして全面的に協力してやれない無力な自分を申し訳なく思った。


「……キャスケット。ごめんな。」

「え?」

「俺は、お前が可愛い。本当はそのお前の恋も応援してやりたい。」

「……ペンギン?」

「しかし、俺は、ロー……船長もお前も、両方大切だ。どちらかにつくことはできない。」

「……ああ。」

「それに、ハルもお前達と同じくらい大切なクルーだ。」

「……うん、わかってる。」


幼馴染として、副船長として言っておくことは言った。
フッと息をついて、キャスケットから視線を逸らす。


「キャスケット……正直俺は、お前や船長が羨ましいよ。」

「……?」

「俺は、故郷を出る時、船長にラフテルの地を踏ませるまでは自分の全ての犠牲や苦労を厭わないと誓った。
恋愛も然りだ。俺はな、不器用なんだ。こう見えて。……たまにお前たち2人が無性に羨ましくなるよ。」


苦笑してキャスケットに視線を戻した。
驚いた目をして俺を見つめている。
こいつもコロコロ表情が変わって面白いな。普段サングラスなんかしてなきゃいいのに。
クスリと笑って、立ち上がった。

「最後のは忘れてくれ。……少し話しすぎたな。メシまで、それ程時間もないだろうが少し眠るといい。」


「ペンギン」

カーテンを開けて出ようかとした時にキャスケットが声を掛けた。
今までささやき声で話してたのに、えらくガラガラな潰れた声だ。


「はは、酷い声だな」


振り向きながら言うと、俺の言葉に構わず真剣な目を向けた。

「ペンギン……俺も同じだ。」


キャスケットがささやき声に戻して言う。


「同じ?」

「……俺も、お前と同じ誓いを立てた。」

「ああ。」

「……ありがとな。ペンギン。」


そう言って、キャスケットは向こう側に寝返りを打った。
その背中を確認して、俺は静かに医務室を出た。


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