No.32




バスケットに熱湯を入れた魔法瓶と、マグカップ、小さな瓶に移した蜂蜜、レモン、林檎を入れ、その上から布巾を掛けた。
火がついているコンロに目をやり、まだ十分に温まらないスープの小鍋を木のレードルで掻き混ぜた。

入口でコトリと音がし、目を向ける。
そこには壁にもたれるようにキャプテンが立っていた。


「キャプテン」

「……キャスのか?」

「はい。」


スープがポコポコと泡立ちはじめたので、コンロの火を消し、鍋の蓋をしめた。


「俺が持っていく。」

「え?……キャプテンが?」

「お前に風邪がうつったら面倒だからな。」

「大丈夫です。私、体力ありますし。簡単に風邪なんか引きませんよ。」

「お前、放っといたらキャスに付きっきりになるつもりだろ。」


何で分かったんだろう。思わず言葉に詰まってキャプテンを見た。

よほど高熱なのかじんわり目を潤ませていたキャスケットが心配だった。
熱があるときは、心細くなるものだ。
つい最近まで一人暮らしだった私はそのことを何度も身をもって知っている。
せめて彼が微熱くらいに下がるまでは傍に付いているつもりだった。

キャプテンが呆れた顔をして、ゆるゆると首を振った。


「だめだ。」

「大丈夫です。万が一私に風邪がうつってもキャプテンが治してくれるでしょ?」


何でもなさそうに言う私の言葉に、一瞬ムッと怒ったような表情を見せたキャプテンはその直後にニヤリと笑った。


「ああ、いいぜ。その代わりお前が風邪を引いたら医務室じゃねぇ。治るまで俺の部屋だ。24時間付きっ切りで看病してやる。」

「わあ。それは絶対うつるわけにはいきませんね。」


そんなことになったら、緊張で治るものも治らないだろう。
苦笑しながら、カップボードからスープボウルを一つ取り出す。


「……でも、キャプテンに風邪がうつるよりずっといいです。」


トレイに、スープスプーンをカチリと置きながらキャプテンを見た。


「万が一、俺にうつってもハルが看病してくれるんだろ?」


キャプテンは少し眉を上げて、先ほどの私の言葉を真似するように言った。
今度は私がムッとして、口を尖らせた。


「しませんよ。」

「キャスにはするのにか。」


面白くなさそうな顔のキャプテンをキッと睨む。


「万が一でも、海賊船の船長さんが風邪なんかうつっちゃだめなんです。」


キャプテンは面白くなさそうな顔のまま数秒私を見つめると、ポケットから紙袋を3つ取り出し調理台の上に並べた。


「5日分作った。左から毎食後、寝る前、解熱剤のとんぷくだ。間違えるなよ。」

「……はい。」


にっこりしてキャプテンを見ると、彼は不機嫌そうな空気を露わにした。


「なるべく、医務室に長居はするな。出てきたら手洗いとうがいを徹底しろよ。」

「了解しました。」

「忘れんなよ。うつったら、治るまで俺の部屋だ。」


耐え切れず、クスリと笑いを漏らした。


「キャプテンて……意外と過保護なこと言うんですね。」


クスクスと笑う私の額をキャプテンがグーにした拳で軽く小突いた。


「お前だけだよ。俺にこんなこと言わせんの。」


え?と顔を上げた時には、キャプテンの背中がキッチンの扉から消えようとしている所だった。


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