No.34




「はは。おっまえ、ひでえ顔。」

「ひどいなあ。キャスケットだって!」

「俺はいいんだよ。あと寝るだけなんだから。」

「あ、そっか。ずるいな。」

「目、冷やしとけよ。ちゃんと。」

「うん、キッチン行ったら氷当てる。」


2人で泣いて、どちらともなく泣き止んで、落ち着いたら、なんだかいつも通りに軽口を言い合っていた。

キャスケットも、絶対に熱が上がってたけど、なんだかスッキリした顔で、ニカッていつもみたいに笑ってくれた。


「キャスケットの事、大好きなのに、応えられなくてごめん。」


医務室から出る直前に、キャスケットにそういうと、彼は少し眉を下げて笑った。


「独り言にこたえるなって言ったのは俺だし……。それに知ってるか?恋愛は壊れることがあっても友情は一生モンなんだぜ?」


ニッと笑いながら「ま、強がりだけどな」と言う彼は、髪はボサボサで目は腫れて、顔は熱で浮腫んで、無精髭がうっすら生えてボロボロで、でも、なんだか今までみた中で一番格好良いキャスケットだと思った。
彼への大好きが恋愛の大好きだったらどんなによかっただろう。
だけど、私の心の中にある彼への気持ちはベポやペンギンに対するそれと変わらないものだった。


「お前が好きだよ。」



この言葉は私の誇りだ。リボンを掛けて心の中に仕舞っておこう。

−−


「うぁー……つめた。」


キッチンの片隅で丸椅子に座って顔を天井に向け、袋に入れた氷を目の上に乗せた。

背の小さい私は、ここで椅子に座ってしまうとカウンターの向こうからは見えない。
目の赤みが引くまでは出来るだけ人に会いたくなかった。


「熱でもでたか?」


からかうような低い声が聞こえドキリとする。
……入ってきたのに気がつかなかった……。


「いえ……、ちょっと疲れ目で……。」

「……ふうん?」


誰にも会いたくなかったのに……。
なんだかバツが悪いような気分になりながら、氷を乗せたまま返した。


「疲れ目は蒸しタオルだろ?」


ジャラリと氷嚢が取り上げられ、急に視界が明るくなったかと思うとキャプテンの顔が逆さまに見えた。
背後から私の顔を覗き込んだキャプテンの顔が険しくなる。


「……なんで泣いてた。」

「……あー……ちょっと、目にゴミが……。」

「嘘つくな。」

「……。」

「……ハル。」


氷嚢は調理台に置かれ、目を逸らせないように頬を両手で挟まれ固定されてしまった。
いくらキャプテンでも、さっきのことを話すなんて出来ない。
顔を固定されたまま、視線をウロウロと動かし、遂には目を閉じた。
目を閉じても、キャプテンがじっと見つめているのを感じる。

諦めたように、キャプテンの手が私の頬から離れたのを感じ、慌てて椅子から立ち上がった。


「そうそう!私お洗濯取り込まなきゃだったんです。行ってきますね!!」


我ながら、なんて白々しい。
でも、とにかくこの場を誤魔化して鋭いキャプテンの視線から逃れたかった。
わたわたとエプロンを外し、キッチンの扉へ向かう。


「……告白でもされたか?」


ドクン!
心臓が跳ね上がり、ドアノブに手を掛けたところで動きを止めた。

恐る恐る顔だけキャプテンの方を向けると、悲しそうな顔をしたキャプテンがこちらを見ていた。
いつも強い目をしたキャプテンのそんな弱い顔を見るのは初めてで……。
何も言葉を返すことが出来ずに、ドアを開け、洗濯室へ走った。


心臓が、ドキドキと煩く鳴り続けていた。


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