No.04




キッチンの扉を開けると、食事には中途半端な時間だからか、誰もいなかった。

バスローブ1枚という格好に気づいた私は、あまり人に会いたくなたかったので、ホッとした。

ベポはキッチンに着くと、ひとまず私をキッチンカウンターの近くのソファーに下ろし、調理台の前に背の高いカウンター用の椅子を置いた。
そして、その椅子に私を乗せて、目の前の寸胴鍋の蓋を開けて見せてくれた。


「ベポ。あのね、この鍋、具は残してスープだけ半分別の鍋に移してくれる?」

「アイアイ」


スープが半分減った鍋の中を覗き込み、フォークと小皿を借りて中の野菜をひとつ齧った。
案の定大きさが揃っていない野菜は大きい物はガリッと明らかに生っぽい歯ごたえがした。

ザルとボウルを重ねたものに目立って大きい野菜を丁寧に取り出し、小さく切りなおす。
その間にベポに水を足してもらい、火をつけた。

一緒にキッチンに並びながらベポに話しを聞いてみた。


「ねぇ、ベポ。コックさんていつから居ないの?」

「えっと、2つ前の島で降りたんだ。」

「じゃあ、それからずっとみんなでご飯つくってるの?」

「うん。島にいる時以外はね。もう半月近くになるよ。」


半月も、彼らはあの血圧が上がりそうな食事を摂っていたというのか……。


「いつも、どんな食事が多い?」

「料理が得意な人が居ないから……レトルトか、生野菜とか魚や肉焼いただけとか多いよ。」

「そう……。ねぇベポ。冷蔵庫の中見せてもらっていい?」

「うん!いいよ」


冷蔵庫の中をざっと見せてもらうと、確かに簡単に調理できるレトルト物が大半を占めていた。
冷凍庫にはコックが残していったらしい肉や魚の大量のストックがあった。

残されたストックの使い方が分からずそのままになっていることが伺えた。

島で調達したばかりだからだろう。新鮮な野菜も沢山入っていたが、使い切れないで残った古い野菜もかなりあった。

萎びかけた野菜と、芽の出かけた玉ねぎを見つけ、賞味期限間近のソーセージで何か作ろうとベポに抱かれたまま他の棚を開けると、小麦粉やドライイーストを見つけたので、簡単なピザを作ることにした。

私は、材料の分量を量ったり、少しだけ材料を切ったりするだけで、ほとんどベポに指示して作業してもらった。

スープの味の手直しも終わり、ピザもオーブンに入れるだけの状態まで作るとキッチンの扉が開いた。


「何をしている」


扉のところにはトラファルガー・ローが立っていた。
彼の姿を見てベポが嬉しそうに駆け寄った。


「キャプテン!みてみて!!ハルがね、ご飯作ってくれたんだ!俺も手伝ったよ!!」

「……俺がいつベッドから出て良いと許可を出した。」


無邪気に話しかけるベポを完全に無視して、トラファルガー・ローは私を睨み付けた。
明らかに怒ったオーラを纏う彼に、ベポは完全に委縮している。
私だって怖いが、ベポばかり矢面に立たせるわけにはいかなかった。


「あの……ごめんなさい。助けてもらったお礼に何かできないかと私がベポに無理を言ったんです。」

「ちがうよ!まだ具合が悪いことは分かってたのにお願いした俺が悪いんだ。ハル、ごめんね。」

「ハァ……。どっちが悪くてもいいから、とにかくベッドに戻れ。」

「ア、アイアイ!ハル、抱っこするよ」

「う、うん」


庇いあう私達を前に、トラファルガー・ローはこれ以上何か言うのも馬鹿馬鹿しいとでも言うように大きなため息を吐いた。

医務室に戻り、ベッドの上に置かれると、トラファルガー・ローは手早く点滴のパックを取り替えた。
……そっか。点滴が終わる時間だったのね。

点滴を取替えに来たときに歩けないはずの私が居ないのだから、さぞかし迷惑を掛けただろう。


「あの、トラファルガー・ローさん。」

「なんだ」

「ほんとに、勝手なことをしてごめんなさい。……あと助けていただいたこと感謝します。本当にありがとうございました。」


相変わらず、彼を目の前にすると、怖さと緊張で体が強張るが、それでも筋は通そうとベッドの上で頭を下げる。


「助けたのは俺じゃない。ベポだ。治療したのは別にお前のためじゃない。」


私の言葉を受けて、彼はカチャカチャと処置した道具を片付けながら淡々と口を開いた。


「しかも、その得体の知れない女は、起きてすぐ動く不良患者ときた。」

「……ごめんなさい。」

「ったく、ベポを粉だらけにしやがって。」

「ごっ、ごめんな……さい……。」


全て御尤もだ。助けてもらった上に勝手なことをしたのだ。彼が怒るのも無理はない。
すっかり恐縮してうつむいていると、頭の上でハァーと大きなため息が聞こえた。


「でも、まぁ。メシの件は正直助かった。ベポに事情を聞いただろうが、そろそろ限界が来てたところだ。」


ため息の後に続いた意外な言葉に思わず目を見開いて彼の顔を見つめると、彼は表情を変えずに続けた。


「だが、次はない。俺が許可するまでこの部屋から出るな。」

「はい。」

「許可する前にキッチンに立ってみろ。問答無用で海に沈める。いいな。」

「は、はい。」

「ハァ……とりあえず、ねてろ。」


カーテンの近くでしょげていたベポの肩を押し、カーテンを閉め、トラファルガー・ローは医務室を出て行った。

なんだか、ベポに悪い事をしてしまった。

しかし、トラファルガー・ロー。
怖い人だと思っていたけど、なんだかクルー想いな人らしい。

ベポを大切にしているのがすごく伝わってきたし、そのベポの頼みとはいえ、何者か分からない私を治療してくれるのだから思うほど悪い人ではないのかもしれない。


無理矢理起きていたからか、脚の痛みは熱さに変わり、気持ち悪いくらいに体がダルく頭がグラグラする感じがした。

目を閉じると眠りにつくのはあっという間だった。


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