No.05 side:CREW




その日は、俺がメシ当番だった。


昼飯の後、夕食用に適当に野菜を切って鍋にぶち込んで固形ブイヨンと塩コショウを入れたスープだけは作っておいた。
あとは、いつも通り適当にレトルトを温めてごまかそうと、夕方キッチンに入った俺は自分の目を疑った。

調理台の上には、オーブンに入れるだけの状態の大きなピザが5枚。
寸胴鍋を開けると、俺が作ったはずのスープは、数倍旨そうなスープになっていた。


な……なんだなんだ。何が起きたんだ?


誰かが代わりにやってくれたのか?
でもこの船にはこんなことできる奴は居なかったはずだ。

わ……わけわからねぇ……。

わけわからねぇが、とりあえず有難てぇ。
頭の上に浮かぶクエスチョンマークを払うこともせず、目の前のピザをオーブンに入れて焼き始めた。

その後、クルーが夕食に集まった時に、夕食はベポとベポが拾った女が作ってくれたのだと聞いた。


この船のキッチンのオーブンはでかい。
そのオーブンの天板いっぱいに伸ばされた大きな四角いピザが5枚。

いくらなんでも残るだろうと思われたが、凄い勢いであっという間になくなった。
普段メシをあまり食わねえキャプテンもいつもより食っていたみたいだ。

スープも同様だったので、慌てて女の分のスープだけは小さな鍋に確保した。

旨いメシを食えるってこんな幸せなことか。
普段は嫌で嫌で仕方がない洗い物も機嫌良く出来た。


後片付けを終えた後、残しておいたスープを温め、女の所へもって行くことにした。

ふと、そういえば女が摘んだ木苺があったはずだと冷蔵庫からいくつか取り出して綺麗に洗い、小さな皿に入れてスープと一緒にトレイに乗せた。


医務室の扉をノックをしても返事がないので、中を覗いてみると女は眠っているようだった。

仕方ないのでサイドテーブルにトレイを置いて出て行こうとすると、女の眉がピクリと動き瞼が震えたのが見えた。


「あ、悪い。起こしたか?」


声を掛けると、女はゆっくり瞼を上げ、ぼんやりした目でこちらを見上げた。


「スープ、もってきたんだ。あー……えっと、ありがとな。旨かった。」


まだしっかり起きていなさそうな彼女にそういうと、トロンとした目のままふわりと笑った。


「今、くえるか?」

「……はい。」


返事をして起きようとした彼女が顔をしかめたので背に手を回して起きるのを手伝ってやった。

起き上がった彼女の膝にトレイを乗せる。
彼女がスープを口に運ぶのを眺めながら声を掛けた。


「俺、キャスケット。お前は?」

「ハル、と、言います。」

「そっか、ハル。あのさ、今日すげーメシ旨かったんだ。」

「そう。良かった。」

「また、手伝ってくれない?」


初対面なのに少し図々しいかな。
そう思いながらも、今日のメシの旨さの感動が忘れられず問いかける。


「ごめんなさい……。まだベッドから動いちゃ駄目って、トラファルガー・ローさんに叱られちゃいました。」


図々しいと嫌がるどころか、彼女は本気で申し訳ないと言うように眉を下げて俯いた。


「あ、そっか。……そうだよな。昨日手術終わったばっかしだしな。いくらキャプテンの腕が良くてもそんなすぐにはな。」

「あ、あの。動いていいと許可がでたら、またお手伝いさせてください。」

「おう。楽しみにしてるぜ。」


俺が笑ってそういうと、ハルもにっこりと笑った。


「あ、そうだ。これさ、お前これ摘みに森に入ってたんだろ?」


俺がトレイの木苺を指差すと、ハルは木苺を見てから驚いたように俺をみた。


「これ、私が摘んでたの?持ってきてくれたんですか?」

「ああ。大分零れちゃって全部じゃないけどな。でもボウル1杯はあったぜ」

「そうですか。……ありがとうございます。」

「いや、それはいいんだけどさ。ハルが起きれないとなると、これどうしたらいいのかわかんねぇよ。」

「あ……ですよね。ジャムを作ろうと思って摘んでたんですけど……。あ、じゃあ。お願いしていいですか?」

「え!ジャムはつくれねえぜ?」

「いえ、動けるようになったらお菓子かアイスクリームにするので、このままビニル袋に入れて冷凍しててもらっていいですか?」

「ああ、それならいいよ。」


笑いながら了解すると、ハルも『おねがいします』と言って笑った。


ハルは、笑うと可愛い。
ベポは、いい拾い物したな。

キャプテンの事だ。きっとハルが動けるようになったらそこら辺の島で降ろすんだろうと思うと少しもったいなく感じた。


ハルから一つ貰って口に放り込んだ木苺は甘い匂いの割りにけっこう酸っぱかった。


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