No.41
誰もいなくなった船長室で少しの間呆然としてしまった。
なんとかヨロヨロと立ち上がり、船長室を出る。
今にも床に落ちてしまいそうなガクガクと震える膝を奮い立たせ、歩を前に進めた。
1段、……1段、と階段を上り、やっとたどり着く。
甲板へ出る扉。
丸い窓から外を覗く。
扉の一番近くにキャプテンが見え、周りをペンギンさん等クルー数人が囲む。
一段下の甲板と、船の下にもぐるりとクルーが囲みそれぞれ武器を手にして身構えていた。
遠くには黒いボトムに青いラインが入った白いシャツを着た海兵たちが大勢並んでいる。
海兵たちの先頭の真ん中に白いコートを羽織ったヴィスナーが見えた。
「ヴィスナー……。」
彼が何かを叫ぶと、海兵たちが一斉に銃を構えた。
はっと息を飲んでキャプテンを見る。
にやりと笑ったキャプテンが、ペンギンさんに何か話しているのが見え、ペンギンさんもにやりと笑ってそれに返した。
キャプテンが手をかざすと辺りが半円状の透明なものに包まれた。
「……や……やめて……。」
やめて……ヴィスナー……あなた殺される……。
ヴィスナーがまた何かを叫ぶ。
銃を構えた海兵たちが一斉に砲撃を始めた。
「……やめて!!!!」
気づくと、分厚く重い扉を開け、私は甲板に飛び出していた。
「いやぁ!!やめて!!!」
時折カンカンと高い音を立てて船に弾が当たっている。
「ハル!!馬鹿出てくるな!!!」
後ろからキャプテンの焦る声が聞こえたが、構わず甲板の真ん中を走り抜けた。
「ハル!!」
「だめだハル!」
「ハル!!戻れ!!!」
周りにいたクルーが私を抑えようと手を伸ばし、それを振り切りながら下段の甲板に降り立つと一番前に向かった。
「頼む!ハル!!船に戻ってくれ!!」
キャスケットの声がして、体が強く引っ張られた。
「いや……やだぁ!!」
甲板の手すりに必死にしがみ付いて叫んだ。
「やめて……やめて……お願い!!!ヴィスナー!!」
この船に……クルーに……キャプテンに、銃を向けないで……!!
ヴィスナーが甲板の一番前に居る私の存在に気づき「撃つな!!」と叫んだ。
彼の号令に気づかず撃ち続ける海兵に飛びついて手から銃を叩き落としている。
完全に砲撃が止まり、ヴィスナーが数メートル船に近づいた。
「姉さん!……トラファルガァァ……お前、姉さんをどうするつもりだ!!!」
「……ちがう……違う!!」
「何故この人が俺の姉だと知った?!姉で俺を脅す気か!!!」
「ヴィスナー!!違うの!!!」
「……姉さん?」
ごめん……ごめんヴィスナー……。
「違うの……。」
「姉さん?捕まったんだろう?怖かったね……すぐ……。」
ぶんぶんと激しく首を振り、彼の言葉を否定した。
「私は……ここのクルーなのよ……。」
辺りは静まり返り、消え入るような私の言葉でも一面に響くようだった。
甲板の床にぽたぽたと目から滴が溢れ落ちた。
「?……姉さん……。自分で何を言っているのか分かるのか?」
「……。」
「……船を、降りるんだ。姉さん。」
彼の言葉に、また首を振る。
「いや……。」
「姉さん……分からないことを言わないでくれ。」
「彼らは悪い人じゃないもの……。」
私に居場所を与えてくれた人達だもの……。
「姉さん!!」
ヴィスナーが声を荒げた。
「悪い人じゃないって?……そりゃ、海賊にも気のいい奴らは居るだろうよ。だけどね、姉さん。
海賊は所詮海賊だ。他人の金品を奪い、命を奪い、それを生業にしている奴らだ。」
もう、言葉を出すことも出来ずに、ヒックヒックとしゃっくりを繰り返してヴィスナーを見つめていた。
「……姉さん。僕は諦めないよ。ログが溜まって出航されるまでに、貴女を迎えに来る。」
「ヴィ……ヴィス……ナー……。」
「……なぁに?」
「この船を、見逃して……。」
「それは……出来ないよ。」
ゆっくり首を振り、彼は海兵たちを引き上げさせ、街へと戻っていった。
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