No.42-side:LAW




うえぇぇぇぇぇぇん……

えぇぇぇぇぇぇぇん……


悲鳴のようなハルの泣き声だけが甲板に響く。


「こんなに取り乱して泣くハル……初めて見た……。」

「……初めて直面した戦闘の相手が唯一の肉親だったんだ。当然だろ……。」


ぽつりと呟くベポの言葉にペンギンが静かに返した。


「お前ら……船に入れ。」


ハルを視界に入れたまま、周りのクルーに言った。

それぞれが目配せをして、心配そうにハルを振り返りながら船の中に戻っていく。
泣き続けるハルの元へゆっくりと近づく。
甲板の手すりにすがりつく様にしゃがみ込むハルの背中をキャスが擦り、「ハル……中へ入ろう?」と繰り返していた。
キャスの肩に手を掛ける。振り向いたキャスが「キャプテン……」と呟く。
船を顎で示し、船内に入るように無言で促すと、ゆっくりと立ち上がり船へ入っていった。


「ハル……。」

「ふ……うぁぁぁぁぁん……。」


手すりから指を一本一本剥がすようにはずし、しゃがんで小さく丸まっているハルを両腕で包むように抱きしめた。


「ハル。」

「……ハル。」


だめだ。パニックを起こしてやがる。
反応せずにえづくほど泣き続ける様子に軽く舌打ちをし、抱きかかえて船内に戻った。

俺の部屋のベッドに寝かせ、キャビネットから緑色の粉薬を出した。
ショットグラスに入れ少量の水で溶く。
横たわっても泣き続けるハルの背中を抱き、上半身を起こしてやる。


「ハル。口を開けろ。気付け薬だ。」


口元にグラスを当てるも、うまく薬が入っていかず口の端からこぼれてしまう。
グラスの薬を自分の口に含み、ハルの顎を天井に向け口付けた。
舌を差し込んで奥に薬を流し込み喉をさする。
コクリと小さく喉が動き、飲み込んだ事を確認して静かに横たえてやった。

ハルの横に寝転がり、ゆっくりと背中を擦ってやる。
腕の中で「ふぇぇぇ……」と泣き続けるハルに笑みを浮かべた。


「……なんだ。お前、ちゃんと泣けるんじゃないか。」


……それとも、これは子供のときに流すはずだった涙なのか?


「……っく、……ひっ……く……。」


ようやく薬が利いてきたか……。


「ハル。」

「……っく……きゃ、……ぷて……。」


ああ、やっと戻ってきた。


「わかるか?」


俺の問いにコクンとハルが頷く。


「良い子だ。そのままゆっくり息をしろ。」


円を描くように背中を撫でながら、すぅ、はぁ、とゆっくり呼吸をしてやれば、ハルも俺に呼吸を合わせてきた。


「そう、上手だ……。」


ゆっくりと繰り返す呼吸に導かれるようにゆっくりとハルの瞼が閉じた。


「クク……ひどい顔だな。」


すうすうと薬によって眠りについたハルの目尻から頬の上で筋になっている涙の痕を指でなぞる。
ベッドから静かに抜け出し、タオルをお湯で濡らし、ハルの額から、目元、頬、顎、首筋とこすらないようにゆっくりと拭いた。

再びベッドに戻り、小さなハルの身体を抱きしめる。


「……ったく、お前は。……頼むから……無茶しないでくれ……。」


もしあの時、あの銃弾のどれかが一つでもお前に当たっていたら、俺はお前の弟を生かしていた自信はない。
細い髪の毛に指を通せば、胸元で軽く握られていた小さな手が俺のパーカーを掴んだ。

そうだ、ハル。
その手を、離すな。

約束しただろ。
ちゃんと、俺について来い。


涙が流れ続けたせいか、赤みの引かない頬に唇を静かに落とし、俺も瞼を閉じた。


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