No.44
ペンギンに手を取ってもらって甲板から船の下に降りる。
船から少し離れたところに、ヴィスナーが立っているのが見えた。
ストライプのワイシャツに細身のブラックデニムという出で立ちで、今日は海軍のコートを着ていない。
ペンギンと並んで歩く私を見つけると、目尻を下げて微笑んだ。
「おはよう。姉さん。」
「……おはよう。」
私がヴィスナーの真前に立つと何処に居たのか、キャスケットとロイが急にヴィスナーの背後に現れ、左右から彼の頭に銃を突きつけた。
ヴィスナーが、少し呆れたように首を傾げ苦笑を漏らす。
「無理やり連れ去ったりはしない。少しの間だけ姉と2人で話をさせて欲しいだけだ。」
ヴィスナーが、ペンギンを見て話す。
私も警戒した表情でいるペンギンを見上げ、大丈夫というように頷いて見せた。
ペンギンが、ヴィスナーの背後の2人に目配せをして船に戻っていく。
ペンギンが離れた直後にロイ離れて行き、キャスケットだけが銃を下ろさずにヴィスナーを睨み付けている。
「キャスケット。」
キャスケットに声を掛けると、眉を下げてこちらを向く。
にっこり笑って彼を見つめると、眉間に皺を寄せ俯いて船の方に去っていった。
私たちの周りからクルーが居なくなると、ヴィスナーは私をハグしてから周囲を見渡した。
「立ちっぱなしもなんだから、そこに座ろう。」
私の手を取って、近くにあった少し大きめの石にエスコートしてくれる。
その上に2人並んで腰を下ろした。
腰を下ろしながらヴィスナーに声を掛ける。
「一人で来たの?」
「ああ、そうだよ?昨日言ったろう?昨日は仕事中だったけど姉さんとゆっくり話がしたいって。」
「そうだったね。」
「部下が居るとゆっくりできないからね。」
ヴィスナーは笑ってから、私の手を取り、繋ぐ。
私の手を包み込んでしまう……大きな手。
「大きくなったね。」
「ああ。14歳から15歳の時、身長が20p伸びたよ。」
「ええ!すごい!!私は14の時から変わってないのよ?」
「あはは!そんなことない。変わったよ。」
「ええ?そう?」
笑いながら聞き返すと、ヴィスナーが、目を細めて私を見る。
「……姉さんも変わった。トラファルガーが姉さんを船に乗せているのも分かる。」
「……どういう意味?」
聞き返す私の問いには返さず、彼は言葉を続ける。
「僕はさ、姉さん。」
「姉さんには、あの島で幸せになってもらいたいんだ。」
「海の見える丘の上に父さんと母さんのお墓が立つあの島で。」
「働いて、友人や恋人を作って、結婚して、子どもを生んで……そうして暮らして欲しいんだ。」
「それを望んで、僕は故郷を出たんだ……。」
ヴィスナーが繋いでいた手をぎゅっと握る。
「僕が海兵じゃなかったとしても……僕は姉さんを止める。」
「……ヴィスナー……。」
「反対するに決まってるだろう?家族が海賊になるんだぞ?」
彼の言葉に返す言葉が何も見つからない。
黙ったまま、繋がれた手を見つめる。
「姉さん。取引をしないか。」
小さくなった声に、彼の顔を見上げる。
「取引?」
目を合わせて聞き返すと、真剣な顔で彼は頷いた。
「ああ。取引だ。姉さんがこの島でトラファルガーの船を降り、僕の手配する船で故郷へ帰るのなら………………僕は、あの船を……見逃すよ。」
最後の言葉を、言い辛そうに苦しそうに、ヴィスナーが呟く。
「……みのがす……?」
「ああ、少なくとも僕の隊が取り締まるこの島では彼らを捕まえることはしないし、させない。」
「ほ、ほんとに?」
「姉さん。取引だって言ったろ?姉さんが船を降りなければ遠慮なく攻撃を仕掛け、彼らを拿捕する。」
ヴィスナーが、私から視線を外し、船を見やる。
「……例え、姉さんがあの中に居てもだ。」
彼が眉を顰め、俯く。
「……僕は、海軍だからね。」
ヴィスナーが、立ち上がり、繋いでいた私の手を引っ張り上げて私を立たせる。
「姉さん。夜まで考える時間を上げるよ。今日の夜、この森を抜けた市場の入り口で待ってる。」
ヴィスナーが数歩森に向かって歩き、こちらを振り返った。
「いい決断をしてくれる事を心から祈っているよ。……姉さん。」
そう言って彼は、街へ続く森の中へ消えていった。
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