No.06




次の日からはトラファルガー・ローに言われたとおり、ベッドの上でおとなしく過ごしていた。


きっと退屈するだろうと思われたベッドの生活は全然退屈などしなかった。
私を助けてくれたベポが、すっかり医務室に入り浸っていて、お喋り好きな彼は本当に楽しかった。

それに、初日にベポと簡単な食事を作ったせいか、時折食事当番のクルーが私の許を訪ねてくるようになったのだ。
彼らは簡単な物でも手作りの食事に飢えていて、一緒にメニューを考えたり作り方を教えたりした。

その後、ベポが運んでくれる食事を口にすると、ちゃんと美味しくて、彼らはやり方を知らないだけで、本当に器用な人たちなんだと思った。


そうそう、たとえ医務室に独りぼっちになっても全然退屈しない理由がひとつ。

ある日、トラファルガー・ローが、私の処置に医務室を訪れた時のこと。

いつもは、入り口側のカーテンを開けて入ってくる彼が、なぜかその日は入り口とは逆側のカーテンを開けた。
その時私の目に入ってきたもの……。


壁についた丸い窓から見えるのは、深い青い世界……。


船から出ているものだろうか……絶えず細かい泡が立ち、その向こうには魚が泳いでいるのが見えた。

息を飲む私に、トラファルガー・ローは訝しげな表情をみせた。


「……なんだ」

「あの、この部屋は海中に潜っている部分にあるんですか。」

彼は、私の問いを聞いて理解したのか、私の目線の先の窓を一瞥した。

「部屋……というか、船全部が潜っているな」

「ぜんぶって……もしかして、潜水艦?」

「ああ。」

「素敵!!」


思わず声を上げた私に、トラファルガー・ローは少し目を見開いた後、フッと空気が漏れるだけの笑いを零した。

いつも無表情か不機嫌そうな顔しか見せない彼の、ほんの一瞬の微かな笑顔だったが、それを見た瞬間心臓がトクンと鳴ったのが分かった。

くっきりとあるひどい隈や、顎鬚、不機嫌そうな表情で全然気にしたことが無かったが、彼はとても美しい顔立ちをしていた。

それに気づくと、処置の為とはいえ彼に太腿を晒したり、ベポが居ない時にトイレの入り口まで運んでもらったり、体を拭く際に首から背中を拭くのを手伝って貰ったりした事が急激に恥ずかしく感じられた。

そして正に今も、彼は私の横に座り、バスローブを捲って太腿の傷口にガーゼを当てているのだ。

「どうした?」

恥ずかしくなった私が、彼の顔を見れずになんとなく窓をみつめていると声をかけてきた。
まさか、今更「恥ずかしい」と訴えることも出来ずにごまかした。

「いえ、あの、海が、綺麗って、思って。」

「ああ。」

「島にいた頃はこんな世界、見れるなんて思わなかったので……。」

「気に入ったか。」

「はい。」

最初はごまかすために口にしたことだが、それは嘘の言葉ではなかった。

窓の外に広がる青い世界は陸から眺める海とは全く別の美しさで、一瞬も同じ景色を繰り返すことのないその窓を私はすっかり気に入っていた。

彼が道具を片付け、箱を持って立ち上がった時に声を掛けた。

「…ひとつ、お願いをしても?」

「なんだ」

「その窓側のカーテンを、そのまま開けててくれませんか。」


私の言葉に彼は動きを止め、開いたままだったカーテンをさらに大きく開けて無言で出て行った。

彼が去った後にベッドに潜ると、彼が少しカーテンを余計に開けていってくれたおかげで横になった状態でも窓が良く見えた。

それから、ベポが部屋に居ないときには窓の外の青い世界を見て過ごした。


深い青色も、泡の流れも、時折通り過ぎる海の生物も私を飽きさせることはなかった。



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