No.4




酒場の一角。

慣れない場所に、ペンギンさんとキャプテンに挟まれ、居心地悪く座っていた。
座っているソファーの足元に置かれたバッグには、本屋の紙袋と、花屋で買った化学肥料が入っている。


「ハル、酒飲むか?」

「やめておけ。寝ているお前を担いで帰るのは難儀だ。」


お酒を勧めるキャプテンの言葉に、すぐさまペンギンが首を振った。
私も首を振りながらキャプテンを見た。


「今日はやめておきます。」

「そうか。じゃあ、好きなもん頼め。」


テーブルの端にあったメニューを手渡される。
じゃあ……と、ソフトドリンクの欄からアップルタイザーを頼んだ。

料理と飲み物が運ばれて、急に賑やかになる。
キャプテンとペンギンさんは、笑顔を見せながらも静かに飲んでいるが、キャスケットをはじめ他のクルーは、身振り手振り、立ち上がったり、本当にテンションが高い。
私は、「な!ハル!!」とか「お前もそう思うだろ?!」と振られる言葉に時折笑顔で頷いていた。

何を考えるでもなく、シュワシュワと目の前のグラスの中で氷の間を炭酸の泡が細かく上がるのを見つめていた。
手の甲で頬をするりと撫でられ、キャプテンを見る。
片手で頬杖を付いてこちらを見ていたキャプテンが、撫でた手で私の片頬を包んだ。


「ハル。いい加減、機嫌を直してくれ。」


つまらなそうにグラスを見つめているのを、私が怒っていると思ったらしい。
困った顔で私を見るキャプテンに微笑んで目を合わせた。


「もう、怒ってないですよ。」


そう言うと、キャプテンも同じように微笑み、私の頬から手を離し、前髪を撫でて、私の手を握った。
横でその様子を見ていたペンギンさんが「くくく」と笑う。


「全く、船長がこんなに必死にご機嫌取りをする女なんか、後にも先にもお前くらいだ。」

「まだ、こんなもんじゃないぞ?この後、宝石にバラの花を100本買ってやらなきゃならない。」


可笑しそうに話すペンギンさんに、キャプテンが肩を竦めながら冗談めかして答えた。


「やめてください。私が拗ねる度にそんなことして貰ってたら、特別な日にしてもらうことがなくなっちゃう。」


私が首を振りながらそう言って笑うと、2人も「本当だ」と笑った。

−カランカラン

ドアベルの音が響き、私の背後にあるドアから数人賑やかに人が入ってきたようだった。

私の前に座っているキャスケットが、海王類の稚魚の大きさを示す手振りのまま固まる。
その目は大きく見開かれ、私の背後に焦点を合わせていた。
その視線を追い、後ろを振り返る。
私の手を握っているキャプテンの力が強まった。


「よお。女。また会ったな。」

「……こんばんは。ユースタスさん。キラーさん。」


真紅とも言える赤が、薄暗い酒場でも眩しくて少し目を細めて見上げた。
キャプテンが、振り返らず、グラスを傾けながら口を開いた。


「ユースタス屋、キラー屋から伝言を聞かなかったのか?」

「けっ。トラファルガー、てめえに用はねえよ。」


吐き捨てるように言ったユースタス・キッドをキャプテンが横目で睨みつけた。


「ユースタス屋、特別にもう一度言ってやる。この女はうちのクルーだ。ナンパなら他所でやれ。」

「女ぁ。てめえが、あの状況で動じない訳が分かったぜ。普通のナリして海賊船に乗ってるとはな。」


キャプテンの言葉を無視したユースタス・キッドが愉快そうに私に話す。


「あれ?おい、女。そういや、てめえ、悪魔の実の能力みたことねえっつってなかったか?」

「あ、はい。ユースタスさんので初めて見ました。」

「くく、じゃあ、まだ、あの趣味の悪いトラファルガーの能力見てねえのか。」


キャプテンが眉を歪めて睨み上げた。


「ダセえ能力使うやつに言われたかねえよ。」

「……っとに、胸糞悪ィ奴だなてめえは。」


ユースタス・キッドの顔も一瞬歪んだが、繋がった私たちの手を見て一瞬眉を上げ、またにやりと笑った。


「ハン。そういうことか。ずいぶん大事にしてるみてえじゃねえか。トラファルガー。」

「お前には関係ねえ。」


キャプテンが私の頭を抱いて、ユースタス・キッドから私の顔が見えないように隠した。


「そこまでしてやる必要ないとおもうぜ?この女はキラーが賞金稼ぎを始末してる所見ても顔色一つ変えやしねえんだからな。」


愉快そうに笑いながら言うユースタス・キッドの言葉にキャプテンが眉を顰めた。


「ユースタス屋……てめえ、ハルに物騒なモン見せるんじゃねえよ……。」


愉快そうなユースタス・キッドの声に対し、キャプテンの声には怒気が含まれている。


「ハル……そうか、女。てめえ、ハルっつーのか。」

「キャア!!……いっ……つ……!!!」


急に髪の毛を鷲掴みにされ、無理矢理顔を上げさせられた。
顎をつかまれ、顔を上に向けられる。
鼻と鼻がくっつきそうな距離にユースタス・キッドの顔が近づいた。


「おい。ハル。俺はてめえに話があんだよ。」


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