No.02-side:BOY
おれは、ハートの海賊団の食堂で体を縮めながら座っていた。
目の前には、頭のてっぺんにポンポンの付いた帽子を被っている人と、さっきの帽子とサングラスの人と……熊。
3人が黙って俺を見つめている。
帽子とサングラスの人に至っては、不機嫌そうにテーブルに頬杖を付いて、もう片方の指先でカツカツとテーブルを叩いている。
「どういうつもりだよ。ハル。」
帽子とサングラスの人が、不機嫌そうな目線をおれからキッチンへ移した。
「まぁまぁ、キャスケット。お話するくらいいいじゃない。」
のんびりした口調で言いながら、ハルと呼ばれた小さい女がトレイにお茶とケーキを載せてキッチンから出てきた。
「はい、どうぞ」と言って、ニコニコしながらおれの前にお茶とケーキを出す。
斜め前に座っていた熊が「わぁい!ロールケーキだぁ!」と両手を挙げた。
「みてみて、ベポのはちょっと厚め。」
とか言いながら、熊の前にもケーキを差し出した女は、おれの隣の椅子に座った。
腕を組み、ずっと黙ったままだったポンポン帽子の男の人は、ハルという女が座ってようやく口を開いた。
「ハル。今回はキャスケットが正しい。今は新たにクルーを入れるタイミングじゃない。」
「ペンギンさん……。」
「それに、こいつはまだ子供だろ?無理だ。」
ペンギンと呼ばれたポンポン帽子の人が、淡々とハルさんに話す。
ハルさんが、眉を下げおれの顔を見た。
岩陰から飛び出して、町へ買出しに出てたというハルさん達に此処のクルーになりたいと言った。
3人の男の人たちが鼻で笑い「お前ぇじゃ無理だ。さっさと家へ帰れ。」と言って船へ入ろうとした所、このハルさんが3人を説得しておれをこの船に入れてくれた。
体を縮めて成り行きを見ていたが、ここでチャンスを掴まなかったら、きっと2度目はない。
勇気を振り絞って裏返るような声で話した。
「あの、おれ……!!」
4人が俺に注目した。緊張して、声が震える。
「確かにまだ12歳だし……子供ですけど、海で生きる覚悟はあります!キャプテン・ローに憧れてるんです!!」
「前に、新聞で見て……それで、きっとログの通り道のこの島にもいつか来るって、待ってたんです!!」
「そのために強くなりたくて、そこらへんのチンピラだったら大人相手でも負けなくなったんだ!」
「これからは、もっともっと強くなります!だから、ここのクルーにしてください!!」
−ガチャン!!
自分で言いながら夢中になりすぎて、いつの間にか立ち上がっていた。
勢い付いてテーブルに手を付いたら、ティーカップがソーサーから浮いて紅茶が少しこぼれた。
我に返り、テーブルを見回すと、キャスケットと呼ばれていた人と白熊は、フォークにケーキを刺して大きな口を開けた形で固まっていた。
ペンギンさんという人は、腕を組みおれを見据えたまま黙っていた。
おれの横に座ったハルさんは、ぽかんと口を開けておれを見上げていたが、急に笑顔になってパチパチと手を叩いた。
「すごいね、君!私、感動しちゃった!!」
また椅子に座ったおれの頭を「すごいすごい」と言いながら撫でた。
最近じゃ親にも頭なんて撫でられることはない。
少し恥ずかしくなって俯いた。
「うるせえな……一体なんの騒ぎだ。」
低い静かな声が響いた。
おれの頭の上でハルさんの手が止まる。
おれにニコニコ笑いかけてたハルさんの目が、笑った表情のまま大きく開かれた。
入り口に立っている低い声の主は、目の前のハルさんに隠れて見ることが出来ない。
「なんだ、ハル。若えの連れ込んで、浮気か?」
低い声が微かにからかうような愉快そうな色を含ませながら続いた。
「キャプテン!!」
ハルさんの声に思わず立ち上がった。
……本物だ……。
手配書で見た、トラファルガー・ローがここに居る……。
おれはキャプテン・ローを見つめたまま、驚きと喜びと緊張で声を失った。
「あのね、キャプテン。彼ね、あなたに憧れて船を訪ねて来たの。ここのクルーになりたいんだそうですよ!!」
キャプテン・ローの傍へ行ったハルさんが嬉しそうな声で話した。
ただでさえ鋭い表情の彼の眉が面白くなさそうに顰められた。
「憧れ?馬鹿じゃねぇか?俺はアイドルじゃねえよ。」
吐き捨てるように言ったキャプテン・ローは決しておれに視線を向けない。
「おい、ペンギン。ガキの遊びにつきあってねぇで仕事しろ。航路の件で話があったんだろ。」
「はい。船長。」
ペンギンさんが立ち上がり、彼もおれの方を見ることなくドアを出て行った。
「ベポ。」
「アイアイ、キャプテン。」
「日が傾き始めたぞ。お前のお友達に、暗くなる前に帰ってもらえ。」
白熊に言いながら、ようやくチラとおれに視線を向けたキャプテン・ローはペンギンさんに続くようにドアを出て行った。
「ほらな。だから俺は言ったんだ。」
キャスケットさんが、フォークについたクリームを舐めながら言った。
「お前ぇじゃ無理だって。」
ハルさんが、泣きそうな顔をして、おれの顔を見た。
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