No.10-side:BOY




「んだ、この酒」

「おい、小僧!てめえ、なめてんのか!!」

「俺は一番上等な酒って言ったんだよ!なんだ、くそ不味い酒だしやがって!」


おれが、酒を運んでから少しして、あの海賊たちが騒ぎ出した。
騒ぎに気付き、親父も厨房から出てくる。
海賊の男たちはグラスを投げ、テーブルを蹴りつけ、椅子を投げるように倒す。


「お、お客さん!!うちの馬鹿息子が失礼をしたのなら謝りますから、ちょっと落ち着いてください!おい、馬鹿息子!てめえも頭下げろ!!」

「んだと?!ジジイ!こんな不味い酒や飯出されて、こんな屈辱的なことがあるか!!」

「それとも、何か?今すぐ酒を買ってくるっていうのか?」


海賊の男達の中で、1人暴れず座っていた男が口を開いた。
顎鬚を生やし、左腕に包帯を巻いている。

……この男。


「それか、てめえが逃がした女を連れてきてくれてもいいけどなあ?」


下衆が……。
ギリ……と奥歯を噛み締め、男を見た。


「カリタス。お前、こちらのお客さんに何かしやがったのか?」


親父が俺を見た。
周りには、他のお客さんも居る。
迷惑を掛けるわけにはいかない。


「おれ、酒、買ってきます。」


俯いて、なんとか口にした。
そして、周りのお客さんに頭を下げる。
レジから仕入れ用の財布を取り出し、店を出ようとした。

さっきの下衆野郎が声を掛けた。


「そうだ。おい、坊主。買ってくるなら、ノースブルーのラスティファルコオールドにしてくれ。」


ニーナの言葉が蘇る。


「こないだも酒屋のボブが、かなり珍しいお酒を注文されたんだけど、相当脅されたみたい。
運良くそのお酒は、ノースに居た親戚がなんとか探して送ってくれたらしんだけどね。」


こいつだったのか。


「頭の為に、せっかく手に入れたんだが、失礼な女に割られちまってよお。うちの頭、機嫌悪ぃんだよ。」


暴れていた男達が、こいつの話を聞いて笑いながら椅子に腰を下ろした。
親父が焦った顔になる。


「そんな!!ラスティファルコなんて、この島のどこの酒屋にだってありませんよ!!」

「うるせえ!!そこの坊主が自分で買いに行くつったんだろうが!ジジイは引っ込んでろ!!」


ロックグラスが勢いよく飛び、親父の胸元に当たって床に落ち割れた。


「とにかく、行ってくるよ……。」


グラスが当たった部分を押さえ、屈みこんだ親父に伝え、店を出た。
おれが外に出ると、あの海賊達の愉快そうな高笑いが外まで響いてきた。


−−


「カリタス、そりゃ無理だ。俺だって、親戚に頼んで5日掛けてやっと取り寄せたんだ。それでも最短だったんだよ。」

「……そうですか。」


酒屋のボブの言葉に俯く。
ボブが気の毒そうな顔をして、おれを見た。


「大変な奴らに目付けられちまったな。あと1日2日でログも溜まるだろうに。」


ゆっくりと首を振りながら話すボブに「ありがとう。」と頭を下げ、外に飛び出した。時間はない。
探しても無いことは分かっている。
でも、探さなければ。
島中の酒屋をくまなく回らなければ。
できることは、それしかないから。

周りなど視界に入らず、夢中で走る。
頭の中は、次の酒屋に行くことしか考えていない。
2つほど角を曲がったところで、急に腕を掴まれた。
全速力で走っていた足は直ぐには止まらず、縺れて、片腕を掴まれたれたままバランスを崩して転んだ。


「カリタス、お前、そんな顔して走って何処行くんだ?」


地面から目を上げると、ペンギンさんが見えた。
周りには他のクルーと、キャプテン・ローも居る。
ペンギンさんが掴んだおれの腕を引っ張り上げて立たせてくれた。


「あの……ラスティ……ファルコのオールドを買いに……。」


息切れをしながらも、呟くと、ペンギンさんが少し驚いた顔をした。


「ラスティファルコ?ノースブルーの酒じゃないか。この島にそんな酒置いてる店があるのか?」


彼の問いに、俯いて力なく首を振る。


「……でも、探さないと……持って帰らないと……店が……親父が……。」


うわ言のように呟き、頭を下げてまた酒屋に向かおうとする。


「待て。」


キャプテン・ローが短くおれを呼び止めた。
足を止め、逸る気持ちを抑えて彼の方を向く。


「キャスケット、船に戻って俺の部屋から持って来い。封を開けてないやつがあったはずだ。分からなかったらハルに聞け。」

「はい。」


キャスケットさんが、走って海へ向かった。
驚いて、キャプテン・ローを見つめる。
キャプテン・ローがおれを見て、ニヤリと笑った。


「貸しだ。」

「……はいっ!!」


浮かんでくる涙をこらえて返事をした。


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