No.12-side:BOY
おれと親父が、慌てて彼方此方から麻袋を集めてきて、彼らに渡す。
バラバラになった奴らは、バラバラになっても尚、動き続けていて、頭の部分はギャアギャアと言葉にならないことを興奮しながら叫んでいる。
キャプテン・ロー以外のクルーが、慣れた手つきで、奴らをポイポイと袋に投げ込んでいた。
親父は、彼らに出す料理を作りに厨房へ入り、おれは箒と雑巾を持ってきて、めちゃくちゃになった店を掃除していた。
割れたグラスを拾おうと、キャスケットさん達の足元へ近づくと、顎鬚の男の頭部がおれに叫んだ。
「てめえのせいだ、小僧!てめえとあの女に会ってから、ついてねえ事ばっかりだ!!」
「……女?」
奴の言葉に反応したのは、おれではなく、キャプテン・ローだった。
「カリタス、女ってのは?」
「……ハルさん……です。」
奥のテーブルで一人座り、酒を煽っていたキャプテン・ローがおれに聞いた。
彼の視線はおれに向けられたものではなかったが、急に鋭さを増したその据わった目は、おれの背筋を凍らせた。
なんとか、あの優しい女性の名前を口にすると、彼の口元が吊り上った。
「ククク、そうか。じゃあ、あいつの顔に傷をつけたのはお前なんだな。」
口元だけで愉快そうに笑う彼の表情は、かえって恐ろしさに拍車を掛けた。
「死ぬ前に為になることを教えておいてやる。……俺の物に傷を付けた罪は重いんだよ。」
そう言って、酷く冷たい目で顎鬚の男を見た後、目線をキャスケットさんに移した。
「気が変わった。おい、キャスケット。」
「はい、キャプテン。」
「その男の頭だけ、生かしておけ。あとで、そいつの船長に話がある。」
「わかりました。……じゃあ、飯ができるまで、他、捨ててきます。」
「おう。」
まるで、人間を指しているのではないような会話を交わした後、キャスケットさんらクルーが何人かで膨らんだ麻袋を担いで店を出て行った。
「せ……せ……船長にって、うちの船長に何するつもりだ!!」
頭だけの顎鬚の男が喚く。
「さあな。」
キャプテン・ローが詰まらなそうに頬杖を付いて、転がった男の頭部から顔を背けた。
「しかし、うるせえな。ペンギン、布でも噛ませて、汚ねえ面向こうへ向けろ。」
「はいはい。」
ペンギンさんが、床に落ちていたナフキンを男の口に噛ませ、髪を掴んでテーブルから見えない場所に投げた。
しばらく「んー!んー!」と声が聞こえたが、そのうち諦めたように静かになった。
なんとか店の中を片づけ、出来上がった料理を次々彼らのテーブルへ運んだ。
粗方運び終わり、外に出てたクルーも戻って、彼らが飲み始めると、親父が厨房から出てきた。
「トラファルガーさん。」
親父がテーブルに近づき、キャプテン・ローに声を掛ける。
料理を口に運んでいた彼が、フォークを置き、親父の方を向いた。
「海賊のアンタに助けて頂いて、なんとお礼を言ったら良いか……。少ねえが、うち中の金、あるったけ持って行ってくれ。」
親父の申し出にキャプテン・ローは鼻で笑った。
「冗談言うんじゃねえよ。一般人から略奪はしねえ主義だ。」
「そういう訳にはいかねえよ!!それじゃ、俺の気が済まねえ!」
親父が返し、キャプテン・ローが眉を少し寄せて、言葉を続けた。
「それに、料理を食いに来た俺らが金貰ってどうすんだ。逆だろ?払うのはこっちだ。」
「じゃあ……じゃあ……。」
親父が、おれの服を引っ張って引き寄せた。
「こいつを、持ってってくれ。」
口元に笑みを浮かべていたキャプテン・ローの顔が真顔になり、少しだけ目が見開かれた。
「何か礼が出来ればいいが、俺にはあんたにやれるもんが何もねえ。こいつは、まだ若えし馬鹿だが、よく働く。好きなように使ってやってくれ。」
「……本気か。」
おれを自分の前に出した親父に、キャプテン・ローが目を細めて聞いた。
後ろで、親父が頷いた気配がした。
「ああ、本気だ。こいつは俺を親父と呼ぶが、俺の息子でも何でもねえ。こいつの代わりはまたいくらでも雇う。」
……親父の言葉に、頭が、真っ白になった。
キャプテン・ローは、しばらく親父を見つめていたが「そうか。」と短く言って、おれを見た。
そして、無傷で戻ってきたラスティファルコの酒瓶を持ち上げ、ニヤリと笑う。
「カリタス、“貸し”返してもらうぞ?人生掛けてな。」
立ち尽くすおれの横で、親父がキャプテン・ローに深く頭を下げた。
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