No.13-side:BOY




ベッドの下から、ボストンバッグを取り出した。

少し埃を被っていたそれは、おれが孤児院からこの家に引き取られて来た時に荷物を入れてきた鞄だ。
……もともとは母さんのものだった。

タンスの中身全部を持っていくわけにはいかないから、数枚を選んでバッグに入れる。
残りはゴミ袋に突っ込んだ。
あとは、靴を2足と、母さんの写真。
多くの荷物は必要ない。

今日のこの日を、ずっと夢見てきたはずなのに、なんだか心が晴れなかった。

昨日の夜から、親父とは一言も話をしていない。
やっぱり、おれは唯の労働力でしか、なかったのか。
その考えが頭になかったわけではないが、でも、それでも、愛されていると……信じていたから。

温かいものが頬を伝う。
慌てて拭い、顔を上げた。

トン、トン、とゆっくりと階段を下りる。
1階に辿り着くと、店の客席のテーブルに、親父が一人で座っていた。
おれが店に入ると、気配を感じたのか顔を上げて此方を見た。


「……行くか。」

「……うん。」


短く返し、床にボストンバッグを置いた。
そして、頭を下げ、床を見つめる。


「親父……母さんが死んでから、おれを育ててくれてありがとう。」

「ふん……おめえの生きた12年で、俺と暮らしたのなんか何年でもねえじゃねえか。」

「……それでも……おれは、あんたが親父だから。」

「うるせぇ……早く行け。」

「……うん。」


見つめていた床に、ポタポタッと雫が落ちた。


「マリアには、ちゃんと報告して行け。」

「……分かってる。」


ゆっくりと顔を上げる。
親父は、おれから顔を背け、窓の外を見ていた。

−カランカラン
ドアベルが鳴り、親父とおれが同時にドアに目をやった。


「……ペンギンさん。」


ペンギンさんが、おれを見て微笑み、親父に近づいた。
親父が、立ち上がる。
ペンギンさんが、親父の前のテーブルに袋を置いた。
その袋を見て、親父が不思議そうな顔をする。


「これは……?」

「僅かで申し訳ないが、迷惑代だ。店の修復にでも使ってくれ。」

「そんなの!貰うわけにはいかない!あんた達には迷惑どころか助けて貰ってんのに!!」


親父が恐縮した顔で、ブンブンと首を振った。
ペンギンさんがニヤリと笑って返した。


「気にするな。昨夜、臨時収入が入ったんだ。」


親父が何かに気づいたような顔をする。


「あ……あの海賊の船が一夜にして沈められたって、町じゃ専らの噂だ。……やっぱりアンタ等が……。」

「そういう訳だ。……じゃあ、行くか。カリタス。用意出来てんだろ?」


ペンギンさんに頷いて、床のボストンバッグを手に取り、彼と共にドアに近づく。
後ろでガタガタッと音がして、振り返った。
木のテーブルと椅子を乱暴に押しのけ、出てきた親父が、床に膝を付いた。


「……っ……息子を……よろしく……お願い……します……っ!!」


床に手を付き、頭を下げる親父の背中にペンギンさんが手を掛け頷く。
ボタボタと涙を流しながら立ち上がる親父がおれを見た。


「……でっけえ海賊に付いて海にでるんだ。中途半端で帰って来やがったら承知しねえぞ馬鹿息子っ!!」

「……う゛ん゛……!!」


流れる涙を止められないまま、ペンギンさんに背中を押され、酒場を……家を……後にした。


[*prev] [next#]

ALICE+