No.02-side:BEPO




ザァァァ……キュッ……
   ガチャガチャガチャ
バタン
     ジュワアァァ、ジャッ、ジャッ、
  パタパタパタ


「ハル」

「ん?あ、ベポ。」


キッチンに入りおれが声を掛けると、彼女は顔の倍はありそうな大きなフライパンを扱いながら、一瞬笑顔をこちらに向けた。
小さな体で何十人分もご飯を作るハルは、いつだって忙しそうだ。


「どうしたの、ベポ?おなかすいた?」

「あ、うん。でもハル忙しそうだね。何かお手伝いする?」

「ありがとう、でも大丈夫。あとは火を通して味付けすればできるから。」

「そう?」

「カリタスが下ごしらえを手伝ってくれたの。」

「……カリタスが。」

「うん。」

「カリタス、よくハルのお手伝いしてるもんね。」

「そうだね。あの子、おうちのお手伝いもあったからこういうの得意みたい。助かるよね。あ、冷蔵庫にバナナケーキ残ってるよ。」

「……あ、うん。」


返事をしてから、しばし一生懸命腕を動かすハルを見つめる。


「……ベポ?バナナケーキ嫌だった?」

「ううん!食べるよ。ありがと、貰ってくね!」


動かない俺に気付いたハルが、フライパンの中身をお皿に移しながら問いかけた。
慌てて、首を振り冷蔵庫を開ける。
今日のおやつの時間に焼き立ての状態で食べたものが、ラップに包まれ冷やされていた。
おれの手のひらほどの大きさに残ったバナナケーキの塊を取り出して、相変わらず忙しそうな、でも手を出す隙のないキッチンを後にした。

手の爪の先でラップを剥いて、バナナケーキにかぶりつく。
焼き立ての時はふわふわしていたケーキが冷たくしっとりとしていて、まるで別のお菓子のようだった。
おいしい。
やっぱり、ハルは料理が上手だ。
おれはどうしても毛先にオイルが付いちゃったり、しかもそれを燃やしてしまったりして上手くいかない。

あ、でも前にハルの手伝いをしてピザを作った時は、おれのでかい手の平はピザ生地を伸ばすのにとても便利だって褒めてくれたな。
そうそう、それと、お皿洗いは得意なんだ。
おれがスポンジを泡立てて洗っていると、それをみたハルが初めて見るくらいの泡立ちだ!ってびっくりしていたんだ。
おれが洗うと最後のお皿まで泡が長続きするんだ。
キッチンには、ご飯の後で手伝いに来よう。

パクパクとバナナケーキを食べながら歩く。
近くの海上に軍艦が居るからか、すれ違うクルーは皆なんとなく慌ただしい。
ラウンジに行こうかとも思ったけど、それよりキャプテンの部屋の方がここから近かったからそちらへ向かった。

−コンコン


「なんだ、ベポ。」


キャプテンは、声を掛けなくても、ノックの音だけでドアを叩いたのがおれだって分かる。
なんでおれってわかったの?って聞いてもいつも笑って誤魔化される。
でも、それがいつも嬉しいんだ。

ドアを開けて中を覗くと、シルバーフレームの眼鏡を掛けてデスクに向かっていたキャプテンが顔を上げてこちらに目を向けた。


「クク……、旨そうなもん食ってるな。口の横にケーキのカスがついてるぞ。」

「え?ほんとう?」


ケーキを持っていない方の手で口元を触ると手の平が小さな固形を捉えた。
その手をスライドして、手に触れているものを口の中に放り込む。
小さな破片でもしっかりバナナの甘みが口いっぱいにひろがった。

キャプテンの部屋に勝手に入り、大きなソファーに腰掛ける。
キャプテンはその様子に何か言う事もなく、おれの動きを目で追った。
そのまま、ソファーの上でもしゃもしゃとケーキを食べ続ける。
キャプテンは、何も言わないままデスクの上に広がった書類に視線を戻した。

全部食べ終わり、ケーキに巻かれていたラップを手の平でクシャクシャと玉にする。
キャプテンのデスクの横に置いてあるゴミ箱にそれを捨てようと立ち上がった。
俺が近づくのに気付いたキャプテンは、片方だけ口角を上げて眼鏡の奥からおれを見上げる。
コロン、とラップの玉をキャプテンの横に置かれたゴミ箱に落とした。


「どうした、ベポ。元気ねえじゃねえか。見張りで居眠りしたの気にしてんのか?」

「いや、違うよ。……それもあるけど、うん……。」


おれが小さな声で答えると、喉の奥で小さく笑ったキャプテンが右手に持ったペンを置いて椅子をくるりと回し、体ごと俺に向けた。


「じゃあなんだ、言ってみろ。」

「ん……と。」


なんて、言えばいいのか、な……。


「キャプテンおれ、最近、たまに思うんだけど……」


話し出したおれに先を促すように、キャプテンの首が少し傾げた。


「おれ、海賊に向いてないんじゃないかな。」


おれの言葉にいつも少し眠そうなキャプテンの目が眼鏡のフレームからはみ出すくらい大きく見開かれた。


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