No.08




トラファルガー・ローは一番小さいサイズとベポに言っていたが、実際着てみると全部凄く大きかった。

黒いTシャツはお尻をすっぽり隠すくらい長いものだったし、“ユニフォーム”と言っていたつなぎも裾や袖を何回も折り返さないと手足が出なかった。
でも、バスローブよりは何倍もマシだ。と思いながらベッドから降りる。

そこには、少し汚れて傷もかなりついていたが見慣れた私の靴が置いてあった。
今まではベッドから降りる必要がある時はスリッパを履いていたから、なんだか安心して自分の靴に足を通した。


カーテンを開けると、そこにベポとトラファルガー・ローが座って待っていた。


「すみません。お待たせしました。」

「ハル、つなぎブカブカだね。」

「うん。クルーの皆、大きいんだね。」

「お前が小さいんだろ。」

「キャプテン!」


「もう、女の子に意地悪言って」と自分の上司を咎める白熊に優しく背中を押され医務室を出た。

数日とはいえずっと横になった状態だったし、少し覚悟はしていたが普通に歩くというのが意外にも大変なことだった。
傷付近の肉が引きつるような違和感があったし、右足に重心が乗るたびに鈍い痛みが走った。
何より体力が落ちているので、少し歩いただけで体がだるくなる感じがした。

楽しそうにお喋りをしながら先を行くベポの後を壁伝いにゆっくりとついていく。
横に並ぶトラファルガー・ローの歩みが、何気に私のペースに合わせられていることに気がついた。
てっきり彼はさっさと自分の部屋に戻ってしまうのかと思っていたので、こうやって一緒に歩いていることさえも驚きだったのだ。
やっぱり、彼は優しい。

彼を見つめていると、視線を感じたのか彼がこちらを見た。


「なんだ」

「……いえ。なんでも。」


彼の眉が少し顰められ眉間に1本線が入るがすぐに表情が戻り、次の瞬間には興味ないというように顔が背けられてしまった。

ラウンジには沢山のクルーが居て、本を読んだりカードゲームをしたり昼寝をしたり、それぞれ思い思いに過ごしているようだった。

そこは丸い部屋で曲線の壁に沿うように作り付けのソファーがあり、真ん中はかなり広い空間だった。
そして壁には、医務室にあったものの何倍も大きい窓があり、素晴らしい海底の世界が広がっていた。

3人でその場所に入ると、皆一斉に此方を向き少し怯んだが中に知っている顔もいくつかあった。


「キャプテン、おはようございます。ハル!お前、もう歩いていいのか?」

「キャスケット。うん。でも久しぶりだから少し疲れちゃった。」

「ハル、じゃあ、あっちに行って座ろうよ」


私の顔をみて、キャスケットが近寄ってきた。

自分の体力のなさに苦笑いをすると、ベポが手を引いてソファーに座らせてくれた。

ソファーに座ると、周りのクルー達が何人か代わる代わる私のところへ来た。
それぞれ簡単に自己紹介をしたり怪我の具合を心配してくれたり色々で、私もそれに丁寧に返していた。


「もういい。分かったから散れ。」


隣で長い脚を組み、ソファーの背もたれに両腕を掛けたトラファルガー・ローが不機嫌そうな声を出した。
彼の一声で私たちを取り囲むように集まっていたクルーが素早く元いた場所に戻っていく。

怒ってるのかな……少し不安になって彼を覗き見るとベポが先に彼に声を掛けた。


「キャプテン、機嫌悪い?」

「別に。んなことねぇよ。」

「寝不足?最近、朝起きてるもんね。」

「……まぁな。」


彼の目の下の酷い隈は寝不足によるものだったのか……。

というか、私がこの船に来てから、彼は毎朝決まった時間に私の具合を確認しに医務室へ来る。
もしかして、寝不足の原因は私なんじゃ……と思い申し訳ない気持ちで横の彼をみた。


「なんだ、その顔。言っておくがお前のせいじゃない。」


私の心を読んだかのような彼の言葉に驚いていると、目の前に誰かが立った気配がした。
目を上げると、小さなつばがあり耳を隠す帽子を被った人が立っている。
帽子にはPENGUINとロゴが付いていた。


「船長、コーヒーでも淹れましょうか。」

「ああ、頼む。濃い目にな。」

「了解です。……お前は?」

「あ、いえ。私は……。」


急に目の前の彼が私に話を振ったので、少し驚きながら、首を横に振った。


「ペンギンペンギン、俺もコーヒー!お砂糖とミルクいれてね。」

「俺、ビール!!」

「お前らは自分で勝手にやれ。」


隣で声を上げるベポとキャスケットの言葉で、目の前の彼が備品庫から着替えを出してくれたペンギンなのだと理解した。

飲み物を強請る二人に落ち着いた声で返した彼はサッと踵を返してトラファルガー・ローのコーヒーを淹れに行った。


「船長どうぞ。」

「ああ。」


片手に椅子、片手にマグカップを持ったペンギンが戻ってきてトラファルガー・ローにコーヒーを渡した。

椅子を私たちの向かい側に置き座る。それを見たキャスケットも椅子を取りにいきペンギンと並んで座った。
私たちが座っているソファーが曲線を描いているので五人で輪になって座っているような形になった。


「ほら。」


ペンギンが私にカップを差し出してきた。
さっき、遠慮したんだけどな……少し戸惑いながらもそれを受け取る。


「ココアだ。嫌いか?」

「いえ、ありがとうございます。いただきます……。」

「ペンギンだ。」

「……え?」

「俺の名前。」

「あっ。ハルと言います。よろしくお願いします。」


マグカップを両手で包みながらペコリと頭を下げた。


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