No.10-side:BEPO
「あ、みてみてキャスケット!このお店入りたい!」
「おっまえ、また菓子かよ!さっきの店であんだけ買っといてまだ買うつもりか?」
「だって、船が出たら次の島までお菓子買えないんだよ?一杯買い溜めておかなきゃ!」
「菓子だったらハルが毎日作ってんじゃねえか。」
「……。」
ハルの名前が出た事で、ぐ、と言葉に詰まったおれを見て、キャスケットが呆れたように溜息を吐く。
ぽんぽん、と宥めるように背中を叩かれ、結局彼はおれが入りたいと言ったその店に入ってくれた。
確かにおれの両手には既に沢山のお菓子の袋がぶら下がっている。
中でも一際大きいのは、可愛い量り売りのお店で買ったグミやジェリービーンズやキャンディ達だった。
量り売りなのをいい事に、普通の袋入りの5倍はありそうな量をそれぞれ買っていた。
それを見たキャスケットは「業者の仕入れかよ……」とやはり呆れたように呟いた。
彼が言うには量り売りというのは少しづつ沢山の種類が買いたい人向けらしいけど、おれに言わせればそれって量り売りの意味あるの?って感じだ。
だって、普通のお店に売ってる袋入りのお菓子はそもそもちょびっとしか入っていないんだから。
ふわふわ浮いた色とりどりのバルーンで飾られたお店に入ると、ふわりと甘い匂いが鼻腔を擽った。
お腹が空くその匂いに少し気分を持ち直し、入り口横のレインボーカラーのかごを一つ手に取る。
「わあ!七色のマシュマロだって!可愛い!美味しそう!」
「……ったく、何が悲しくて野郎だけでこんなファンシーな店に。」
大好物を目にしてテンションが上がる俺の横でキャスケットがぼやく。
彼の言葉はスルーして、チョコレートやキャラメル、チューインガムなど目に付いた物をポイポイかごの中に放り込んでいく。
ガラリと音がして、おれの持つかごに何かが放り込まれる。
目を落とすとミントキャンディーのブルーの缶が入っていた。
「こんな辛いやつ要らないよ。」
「俺が食うんだよ!」
かごから売り場に戻そうとその缶を手に取ると、隣にいたキャスケットがまたおれの手からそれを引ったくりかごに戻した。
なんだ、ぶーぶー言ってた割にはキャスケットも買い物するんじゃないか。とちょっと可笑しくなった。
ご機嫌で買い物を終え、また町に出る。
キャスケットに付き合って酒屋でスコッチを買い、ガンショップで銃弾を買う。
そろそろ帰ろうかと今来た道を引き返す。
「あ。」
隣を歩くキャスケットが、声を上げ足を止めた。
彼に倣って足を止め、目の前の店の看板を見上げる。
あ……此処は……。
足を止めたおれを残し、キャスケットがその店のウインドウに駆け寄った。
そして、中を覗き込み、少し離れた所に立っているおれを振り返る。
「ベポ、お前、こういうの要るんじゃねえの?菓子ばっかりに金使ってないで此処で要るもん買っていけよ!」
天球儀、羅針盤、望遠鏡、ログポース。
デバイダーにコンパス、三角定規。
キャスケットの指さす先に飾られている物から思わず目を背けた。
「……いいよ。」
「いいってことないだろ。だってお前。要るだろ?キャプテンに教えてもらっ……」
「いいんだよ!」
だって、キャプテンはもうおれには教えてくれない。
「……そうかよ。じゃあ、勝手にしろ。」
そう返したキャスケットの声色が平坦で、おれが思わず怒鳴ってしまったせいで怒らせたかと彼の顔色を窺う。
確かにさっきみたいにご機嫌な顔ではなくなっていたけど、おれと目が合うと「行くぞ」と言って歩き出す。
ほっとして駆け寄り、歩く彼の隣に並び足並みを揃えた。
「キャスケット、チェリーボンボンあげる。」
「いらねえよ。」
「これは大人のお菓子だからキャスケットも食べれるって!」
「大人のお菓子ってなんだよ!!」
「ミントキャンディーも大人のお菓子でしょ?」
「なんだそれ……。」
おれがお菓子を差し出した手を、キャスケットが笑って押し返す。
そのいつも通りのやり取りが、なんだかすごくうれしかった。
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