No.11-side:BEPO




「ベポ、そこのドレッシングとってくれ。」

「ん。」

「サンキュ。」


おれのすぐそばにあったドレッシングボトルをロイに手渡す。
前はハルやキャプテンとテーブルを同じくしていた夕食も、キャスケット達のメンバーに混ざる事が定番になってきた。
さり気なく食堂内を見渡すと、ハルはキッチンの中でなにやら動き回り、食べ終わったクルーの食器を受け取っている。

キャスケット達は良い奴だし面白いけど、やっぱりハルが気になり目で追ってしまう。
だってハルはおれが拾った女の子で、おれの親友だから。
ハルとお喋りするのは、焼きマシュマロを食べるより楽しい。
火で炙るとぷっと膨らんで、甘くてふわふわで口の中であっという間に溶けちゃうマシュマロはすごく面白くて楽しい食べ物だけど、1kgも食べたらやっぱり飽きちゃう。
何回お喋りしても全然飽きないハルはすごいと思う。

ハルと、仲直りしたいなぁ。

胸がきゅうと痛くなって、なんだかとっても寂しくなった。
胸に詰まった寂しい塊がほんの少しでも口から出て行かないかと、はぁ、と溜息を吐いた。


「あー食った食った。そろそろ行くかー。」

「おう、ラウンジでチェスしようぜ。」

「何賭ける?金?」

「金は勘弁してくれ!風呂掃除は?」

「イイ本を手に入れたから俺はそれを賭けてやるよ。」

「まじか!」


同じテーブルの面々が話しながら空の食器が乗ったトレイを持ち立ち上がる。
それに倣ってカウンターに食器を返しに行くため、おれも立ちあがった。
おれ達がカウンターに向かう頃、食堂の扉が開き、カリタスが入ってくるのが見えた。


「あら、カリタス遅かったね。」

「はい、ひと休みしようと思ってハンモックに入ったらこんな時間になってて。」

「働き過ぎだよ。もうちょっと力を抜いても良いんだよ。」


ナツと軽く会話をした彼は、最後に苦笑をしながら食事を受け取り、窓側の席に着く。
そして黙々と一人で食べ始めた。
その様子を目の端に入れながら、食器をカウンターへ返し、食堂を出る。


「……ねえ、カリタスはいつも一人でご飯食べてるの?」


ラウンジへの移動途中、さり気なくキャスケットの横に並び問いかけた。
キャスケットは、少し眉を上げておれを見てから頷いた。


「ああ、まぁ、5歳以上年の離れたやつしかいねえ船だし、あいつは子供のくせに変に気遣うやつだしな。」

「なんで?だってハルや、キャスケットだって仲良くしてたじゃない。」


キャスケットの答えに驚いた。
だって、彼は若いのに何でもできて、頼りにされて、皆の輪に容易く入って、生き生きと楽しく仲良くクルーの仕事をしているのだと思っていた。
例え年上しかいない船でも、頑張り屋で大人っぽい彼は仲良しの友達もとっくに出来たと思っていた。

重ねておれがキャスケットに問うと、彼は少し困ったように眉を下げた。


「そりゃもちろん、俺は仲良くするよ。他のクルーもな。この船に乗ってる奴は全員家族と一緒だ。だけどいつでもべったりって訳にはいかないだろ。俺だって、あいつだってハルだって、仕事やプライベートがある。」

「そうだけど……。」


そうだけど……じゃあ、彼はこの船に乗ってからずっと一人ぼっちでご飯を食べてたの?
ハルもキャスケットも居ない時に暇な時間が出来たら、一人ぼっちで時間を潰していたの?
まだ12歳なのに。
島を出て、お父さんや友達と離れて大人だらけの船にたった一人で乗ってきたのに……。

急に、今まで自分が感じていた寂しさがほんのちっぽけな物に思えた。
彼はおれなんかよりずっと寂しいんじゃないか。
彼に感じていた恨めしさも、もうない。

おれ達よりずっと小さな少年が、心に秘めているであろう心細さや寂しさが急に思い遣られ、ラウンジに向かっていた足取りが重くなった。
同時に、ハルやキャスケットやキャプテンをとられたと思って一方的に敵視していた自分がなんだか急に恥ずかしくなった。

そわそわし始めたおれを見て、キャスケットが笑い声を上げた。
急に笑った彼を怪訝に思って見つけると、笑みを湛えたまま、彼はおれの肩を叩いた。


「気になるんだろ、行ってやれよ。」

「でもおれ、彼に今まで優しくなかった。」


優しく、出来なかった。


「今まではそうでも、これからはそうじゃないだろ?」


話しながら歩みが遅くなっていたおれ達は、先を行くロイ達との距離が随分ひらき、ついには歩みを止めた。


「キャスケット、おれ行ってくる。」

「おう、それでこそベポだ。じゃあ、おれはラウンジに行くから。」

「うん、ありがとうキャスケット。」


ぽんぽんと背中を叩く友人の手の平に励まされるように、おれは食堂へ引き返した。


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